04
「……は?事故?」
あれはもう何週間も前の事。マルコの会社に蘭が事故ったと電話が来たのだ。
「だって!あいつは!!!」
マルコは乱暴に電話を切るとその足で病院に向かった。
手術室の前で待ち、長い時間を一人で過ごした。
「っ!!先生!!」
マルコはすがるように手術の終わった医師を呼び止めた。
「……奥さまは無事です」
「…………‘は’」
マルコの一言に医師は無言で首を横に振った。
「……蘭……」
病室に運ばれていく蘭は青白く、人形の様だった。
「……赤ちゃん」
「……」
余りにも生気の無い声にマルコは息を飲んだ。
「いなくなっちゃったって……」
虚ろな瞳、口はあまり動いていない。
「…………蘭が無事で良かったよい」
マルコは言葉がなかなか出て来ず、それだけを何とか言葉にした。
「嘘!」
マルコの言葉に蘭は急に感情的に叫んだ。
「マルコ、私の事どうでも良いと思ってる!!別れたいとも思ってる!!」
「……?」
マルコは蘭の言葉に眉間にシワを寄せた。
「本当は鬱陶しくて仕方ないんでしょ!!!子供がいなくてせいせいしてるんじゃないの?!」
「そんな事!」
「無いって言い切れるの?!」
蘭はマルコを睨み付けた。
「言えるよい!だから、落ち着け」
「ほら!面倒だと思ってる!!」
蘭はぽろぽろと涙を流しながら暴れる。
「暴れるなよい!針が!!」
マルコは慌てて蘭を押さえ付ける。
「どうしました?!」
騒ぎを聞き付けたナースが部屋に入って来て、慌てて医者を連れてくる。
「これで少し落ち着くでしょう。デリケートな問題です。奥様を大切にしてあげて下さい」
鎮静剤を投与すると蘭は静かに寝息をたて始めた。
「…………蘭」
マルコは今まで仕事最優先で蘭の事を気にかけていなかったと反省をした。
蘭が聞き分けの良い事を利用してマルコは家を空けていた。
妊娠した時は本当に幸せそうに笑っていた事を思い出した。
「大丈夫。お前を愛してるよい」
マルコは早く目を覚ませと願った。
しかし、マルコの願いとは反して蘭は長い眠りに入った。
そして、ようやく目を覚ましたが記憶は失われていた。
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