03
「出来合いで悪ィが我慢してくれよい」
食卓に並んだのは出前で頼んだうどんとカツ丼だった。
まだ普通の食事に慣れない蘭が望んだ物だった。
「ん!美味しい!」
蘭はうどんをちゅるんと食べた。
「出前って殆ど食べないから美味しいですねー!」
「……そうかよい」
マルコがクスリと笑った。
「あ!そう言えば!マルコさんが私の結婚相手って証拠あります?」
蘭がうどんのつゆを飲みながら聞く。
「こわれじゃ、ダメかよい?」
ゆ
マルコがおもむろに左手を上げた。
「……あぁ!そう言えば!」
自分の左手の薬指にはまった指輪を掲げる。
「これも良いですけど、出来たら写真とか」
「写真?」
「そう!結婚式とか!!」
蘭は目をキラキラさせながらマルコへと身を乗り出した。
「……待ってろい」
マルコはカツ丼を完食すると流しに入れ物を置き、どこかへと姿を消した。
「……ほら」
数分後、マルコは何冊かのアルバムを持ってきた。
「ありがとうございます!うわ……」
そこには確かにマルコのタキシード姿と蘭のウェディングドレス姿があった。
「……似合わねェとか言うんだろい?」
マルコはぶっきらぼうに言う。蘭がマルコに目を向けると少し照れているのが解った。
「ううん、マルコはカッコイイよ」
「っ?!」
クスリと笑う蘭を振り返るとそれは記憶を無くす前の蘭の顔だった。
「蘭?!お前、記憶……」
「え?あ!従姉妹もいるー!このお姉ちゃん小さい時からお世話になっててねー!」
蘭はすっかり元通りの顔で自分の結婚式の写真を眺めた。
「……」
マルコは少し落胆しながらも、楽しそうにする蘭を見て笑った。
「お風呂入りましたー」
ほかほかと湯気を立てながら蘭はリビングに戻った。
「おう。ベッドはこっちだよい」
マルコは寝室に蘭を案内する。
寝室は広く、キングサイズのベッドが置いてあっても気にならない広さだった。
「うわ!大きなベッド!!」
蘭はふかふかのベッドにダイブした。
「……ガキ」
「っ!!そうですよ!」
マルコの言葉に蘭はハッと我に返り、恥ずかしそうに怒った顔をした。
「じゃあな、ゆっくり寝ろよい」
マルコは言うと電気のスイッチであるリモコンをベッドの蘭へと投げた。
「え?マルコさんは?」
蘭は不思議そうに振り返る。
「ソファー」
マルコは言いながらリビングを指差した。
「え?このベッド大きいから一緒に寝れるでしょ?風邪引かないですか?」
キングサイズのベッドなら大人4人は寝られそうだ。
「…………」
マルコはじっと蘭の顔を真顔で見る。
「……?マルコさん?」
蘭は不思議そうにマルコを見上げる。
「……悪ィが、同じベッドに寝て手お出さずにいる自信はねェよい」
マルコはニヤリと笑うとそのまま部屋を後にした。
「…………っ!!!」
マルコが出て行ってから蘭は顔が真っ赤に染まった。
マルコは深夜のつまらないテレビをつけて、その画面を見ていた。だが内容は全く頭に入って来なかった。
「……」
寝室に続く方を見て、大分前から音はしなくなった。
マルコは立ち上がると寝室へと足を運んだ。
「すー……すー……」
寝息を立てて眠っている蘭を見下ろす。
安心しきった顔で寝ている蘭を見るとホッとすると同時に不安になった。
病室で寝続ける蘭はもう見たくはなかった。
「……早く……俺の事思い出せよい」
マルコは蘭に触れようとするが、その手を引っ込めると自分も眠るためにリビングへと帰った。
「じゃあ、行ってくるよい」
マルコはスーツを羽織ると蘭を振り返る。
「いってらっしゃーい!」
蘭は笑顔でマルコに手を振る。
「……ねぇ、マルコさん」
「ん?」
ドアを開けたままマルコは 振り返る。
「早く記憶戻って欲しい?」
蘭は何て事無いように見えるが、マルコから見たら不安そうに見えた。
「焦らねェで良いよい」
マルコは優しい表情でそう言うと出掛けて行った。
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