02

「しかし……夢から覚めていきなり年取ってるし、結婚してるしで、おかしいよねー」

蘭は体の怪我自体は既に良くなっている様で、散歩に出ていた。だが、筋力はおちてしまったので散歩は病院の中だけだった。

パジャマにパーカーを着て蘭はゆっくりと歩いていた。

「あ、売店」

蘭はフラりとそこに立ち寄る。

「本当に新聞の日付も進んでる」

蘭は不思議そうに新聞を眺め、漫画が並んでいるのも見えた。

「うわ、ジャンプ知らないのばっか。ワンピースも……誰これ?絵も違う……」

蘭は悩みながらそれを置く。

「お腹減らないけど、甘いのも食べたいなぁ」

菓子パンの置いてある棚を見ていると誰かが走っていた。病院の中を走るなんて……と思っていると、素早く走り去ったのは面白い髪形をしたマルコだった。

「どうしたんだろ?あんなに急いで」

蘭は不思議に思いながらマルコの出て行った方へと足を向ける。

「うわ、速っ!!」

この寝ていた時期は体を動かして居なかったので筋肉も衰えていた。追い付かないや、と諦めかけた時、マルコがこちらを振り返った。

「っ!蘭!!!」

マルコは凄い形相で蘭の元へと帰ってきた。

「うわっ!!」

突然抱き付かれ、蘭は驚いて叫んだ。

「お前、俺の前から二度もいなくなるとか本当にいい根性してるよい」

「……ごめんなさい」

何かを言い返そうと思ったが、マルコの「はぁはぁ」と言う切れた息と抱き締められた時に感じた汗の量でどれほど心配させたかが分かったからだ。

「……マルコさん、あのさ、そろそろ」

通りすがりに自分達を見ていく人の目に耐えきれずに蘭はマルコに声をかける。

「あ、あァ。悪ィよい」

マルコはようやく蘭を離すと蘭の手を繋ぎ、病室へと戻る。

「え?あの、手……」

蘭は繋がる手を見て顔が熱くなった。

「これ以上どこかにいかれるのは困るからよい」

マルコはニヤリと笑って手を離す気配は微塵もなかった。







「検診の結果、退院だとよい。明日の朝迎えに来る」

マルコは面会時間ギリギリになりそう蘭に言う。

「あ、家に帰れるんだ」

ホッとした様に蘭は息をついた。やはり知らない所にいるよりも家に帰りたかったのだ。

「家に帰っても安静だよい」

マルコは呆れた様に笑った。

「はーい」

蘭は素直に頷いた。









「すみませんね、車出して貰って」

蘭はマルコの車に乗りながらそう笑った。

「当たり前だろうよい。着くまで寝てても良いぞ」

マルコは言うと車を発進させた。
マルコの車の運転技量は高く、スピードは速かったが、安心して乗っていられた。



「着いたよい」

「…………」

マルコが言うとさっさと車を降りた。トランクから荷物を取り出す。

「何してるよい。早く降りろい」

ポカーンと口を開けている蘭を不審そうに見ながらマルコはそう促した。

「……ここ、どこ?」

蘭は車を降りながらポツリと呟いた。

「家だろう?」

「誰の?」

「俺とお前の」

「マルコさんと、私……の?」

高級マンションの駐車場からエントランスを抜け、エレベーターに乗る。ドンドン上に上がる。

「ほら、来い」

「お邪魔しまーす……」

マルコに促され入ると、そこは高級感漂う部屋だった。だが、こたつだけが異様に存在感を出していた。

「適当座れよい」

「……」

マルコは言うと荷ほどきをした。

「……無理!」

「は?」

「無理です!無理無理!何ここ?!私こんな所じゃ寛げない!!」

「……」

蘭がそう叫ぶとマルコはポカーンと口を開けた。

「……くっ!くはははははははははは!!!」

「……え?……マルコ……さん?」

突然爆笑し始めたマルコを不審そうに見る。

「いや、悪ィ。蘭が初めてここに来た時と同じ事抜かしやがるからよい、ククク」

笑いの残る顔でマルコが蘭を見る。

「このこたつは蘭が独身時代から持ってた奴だよい」

マルコは愛しそうに炬燵を見て蘭に近付いた。

「お帰り、蘭」

マルコは蘭の頬を愛しそうに触りながら優しく声を出した。

マルコのそんな顔を見ていたら「家(実家)に帰りたい!」とは言えなくなってしまった。

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