01

「……ん……」

蘭はとても長い眠りから覚めたような感覚で目を覚ました。

「……ん、んー!よく寝た……。ん?寝過ぎたかな?頭がボーッとする」

蘭は霞の掛かるような視界をハッキリとさせるために目を擦った。

「あたた……腕が痛い」

蘭は擦るために上げた腕が痛くて辛かった。

「……あれ……?ここ、どこ?」

蘭は体を起こして部屋を見渡した。
起こした体は異常にダルく、重かった。

「……点滴?」

腕に付いているのは点滴の針だった。

「針が刺さってる……!!こ、怖っ!」

抜けたり曲がったりに恐怖を感じ、蘭はそっと動く事にした。


ーーがらがら


引き戸が明き、一人の男が入ってくる。初めは下を向いたまま入って来たので蘭が起きている事に気付かなかった。

「……」

面白い髪形だなーと思っていると男は蘭を見て驚いた顔をした。

「……」

「……」

「……」

「……あ、あの?」

驚いたまま固まってしまった男を不審に思い、蘭は恐る恐る声をかける。

「っ!!……良かった!」

「ギャッ!!!」

突然男が蘭に駆け寄った。突然抱き付かれ、蘭は悲鳴を上げた。

「痛い所はないかよい?」

男は蘭の悲鳴を無視する様に抱き付いたまま声を出す。

「はな、」

「鼻?」

男は眉間にシワを寄せると蘭の鼻を観察する。

「特に怪我は無いようだがよい」

男は右手で蘭を抱き締めたまま左手で蘭の鼻に触る。

「違っ!離して!!」

蘭は嫌々と男から逃れようと暴れる。

「は?……何でだよい。久し振りに起きたんだ。少しは良いだろうよい?」

色気のある男の声に蘭はゾゾゾと鳥肌が立った。

「っ!!」

「った!何するんだよい!」

蘭が全力で男を押した。それに驚いた男が驚きと怒りの表情で声を荒げた。

「だって!いきなり知らない!それも男の人に抱き付かれたら誰だって嫌がります!!」

蘭はキッと男を睨み付けながら布団を手繰り寄せた。そして、ナースコールを躊躇なく押した。

「知らない?何かの冗談か?面白くねェよい!」

男は眉間にシワを寄せると蘭を睨むでもなく見つめた。

「は?知らないものを知らないって言って何がおかしいんですか?」

蘭と負けじと男を見つめた。

「あらー!蘭さん!起きられましたか?旦那さんも調度いて良かったですね!」

ナースは朗らかな声と共に入室すると蘭の脈や血圧を測る為に準備をする。

「…………は?旦那?」

蘭は驚いてナースを見る。

「ええ!マルコさんとおしどり夫婦で有名ですもんねー!貴女が目を覚まさない間よく来て下さってましたよ!仕事もあるのに」

ニヤニヤと楽しそうに話すナース。

「…………」

蘭は信じられないと男ーーマルコを見上げる。

「……記憶にないのかよい?」

「へ?」

「……記憶にないですね」

「え?……えぇ?!」

驚いたナースはすぐに主治医を呼んで検査を始めた。








「えーっと、じゃあ蘭さんは今大学生で、気付いたらここに?」

「……はい」

蘭は医師の言葉に力強く頷いた。

「なるほど……。少し席を外しますね」

医者はマルコを呼ぶと病室から外に出る。

「記憶喪失……記憶が後退しているようですね」

「……治るのかよい?」

マルコは難しい顔で医者を見つめた。

「えぇ。自然に任せるのが一番でしょう。事故の後遺症や脳には異常が見当たりませんので。優しく接してあげて下さい」

医者はにこりと笑うとナースを伴いその場を後にした。

「……あの」

病室に戻って来たマルコを蘭が見つめた。

「軽い記憶喪失らしい。まァ、脳にも異常がないからそう思い詰めなくて良いだろうよい」

マルコはなるべく優しく声を出す。

「……はぁ」

蘭は気のない返事をして目線を窓へと移した。

「……冬?」

蘭はポツリと呟いた。

「……あァ。もうすぐ春だよい」

マルコはそれに反応する様に声を出すと、パイプ椅子を引き寄せて座った。

「……大学にも行かなくて良いんだね」

「卒業してるからねい」

「卒業出来たんだ……良かった」

ホッとした様な声にマルコはクスリと笑った。

「ギリギリだったらしいよい」

「私?」

「あァ」

「やっぱり!……でも、まぁ!卒業しちゃえばこっちのものよね!」

蘭は明るく笑った。

「無理するな」

「え?」

蘭が振り返ると真面目な顔をしたマルコがいた。

「強がるな。お前は強いけど、弱いんだろい?」

「っ!!!」

マルコの言葉に蘭の目頭が熱くなる。

「不安なのは分かる。強がって良い。だが、俺の前では泣いてろよい。いつもみたいにな」

マルコがポンっと蘭の頭を叩くと蘭の目からは涙が溢れた。

「……何でバレたの?お母さんにしかバレた事無いのに……」

蘭は歯を食いしばり、泣くのを我慢した。

「俺がお前の旦那だからだよい」

優しいマルコの声に蘭は堪らず涙を流した。

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