03
再び分娩台の玲奈の元へやって来る。
「はい、お母さん!手を出して、こう」
ぐったりとした玲奈の腕を出させ、腕枕をするように綺麗になった赤ちゃんを抱かせた。看護師は忙しそうにベックマンに「何かあったらナースコール押してください。母体は2時間ほどこのままです」と言うと分娩室を離れた。
「ふふ……可愛い」
3人だけに残された静かな部屋で玲奈の声が響いた。
「あァ」
ベックマンはそう言いながらカメラのシャッターを切る。
「赤ちゃん……私が産んだの……」
「あァ」
「私の……家族……」
初めて出来た血を分けた存在に玲奈は静かに涙を流した。
「……ありがとう」
ベックマンは優しく玲奈の頭を撫でた。
「ん?」
「俺を父親にしてくれた。守るものも増えた」
ベックマンは静かに声を出しながら赤ちゃんにも触る。暖かく、弾力があった。
「……ふふ」
玲奈はベックマンを驚いた顔で見てから柔らかく笑った。目からは涙が溢れた。
「産まれてすぐの時は血だらけでエイリアンぽかったけど、今は凄く可愛い……」
玲奈はクスクスと赤ちゃんを見た。
「……確かに」
ベックマンはそれを思い出し、頷いた。
「私たちの所に来てくれてありがとう」
玲奈はそう言うと疲れた様に目を閉じた。
「寝るか?」
「ううん。頭は割りとしっかりしてる。走り回りたい気分」
「何だ、それは」
玲奈の言葉にベックマンが呆れた様に笑った。
「お頭に連絡してくる。心配しているだろうからな」
「うん、幸子にもお礼言っておいてね」
「わかった」
ベックマンは玲奈に頷くと分娩室から外へ出た。
「お帰りなさい。赤ちゃんは看護婦さんが連れていったわ」
分娩室へ戻ると玲奈は一人で分娩台に寝ていた。
「そうか」
「今日は別々だって。最後の夜だからゆっくりと寝てねっ言われちゃった」
興奮ぎみに玲奈は声を出していた。
「明日は朝だけ出勤する。午後には帰ってくる」
ベックマンの言葉に玲奈は不安そうな、寂しそうな顔をする。
「そんな顔をするな。行けなくなる」
ベックマンは苦笑しながら玲奈を優しく撫でる。
「……うん」
玲奈は静かに涙を流した。やはり感情が高まっているようだ。
「……今日はここに泊まる」
「え?」
「何のために高い金を払って個室にしたんだ」
ベックマンはクスクスと笑った。
「……ベッドひとつだけしかないわよ?」
「寝袋は持参済みだ」
玲奈は驚きながら声を出し、ベックマンの言葉に更に目を丸めた。
「前以て病院には了解済みだ。安心しろ」
ベックマンはニヤリと笑った。
「……ベックマンがそこまでしてくれるとは思わなかった……」
玲奈は驚いたままポツリと声を漏らした。
「正直言うと俺自身が驚いている。まァ、それだけ俺はお前を愛していると言う事だ」
ベックマンは優しく笑うと玲奈のおでこにキスをした。
「……ベックマン」
玲奈は照れたように顔を赤めると嬉しそうに笑った。
「そう言えばお頭が性別をしつこく聞いていたぞ」
「?言わなかったの?」
「あァ。どうせ来るだろう」
「……」
「明日来るそうだ」
「早いわね」
「待ちきれないらしい。何故か俺達の両親になった気でいるようだ」
「…………そんなに老け込んでたのね、社長」
「ククク」
「幸子にも早く見せたいわ」
「明日来るだろう」
「ふふ、楽しみだわ」
「そうだな」
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