01
玲奈とベックマンはシャンクスと幸子のマンションで夕飯をご馳走になり、のんびりと過ごしていたところ……。
「っ……」
「息は止めちゃダメだよ。辛くても酸素を赤ちゃんに送らなきゃ」
辛そうに痛みを我慢する玲奈に幸子は経験者として優しく声をかける。
「ん……うん……」
玲奈は息を大きく吸い込み、吐き出す。
「ヒッヒッフーって奴だろ?」
シャンクスが記憶をたどって思い出す。
「今は深呼吸で良いらしいな」
ベックマンは調べたらしい知識で頷く。
「ベックマンさん。準備は大丈夫ですか?今は15分間隔になってます」
幸子はキリッとした表情でベックマンを見上げる。
「あァ。大丈夫だ」
ベックマンは当然のように頷く。だが、少し緊張している様にも見えた。
「初産婦は産むのに時間がかかるから3分間隔で良いらしいけど……」
幸子は時計を見ながら声を出す。
「わ、たしの言ってる医院は5分で電話する事になってるの」
陣痛の痛みが治まった玲奈が冷静に声を出す。
「そっか。車の準備も大丈夫だし、のんびりとしようか。タンポポコーヒー飲む?買っておいたよ!」
幸子は嬉しそうにキッチンへと向かう。
「さすが、経験者は落ち着いているな」
ベックマンは感心したように幸子の背中を見送った。
「当事者の時は大変だったけどな」
シャンクスは苦笑しながら頷いた。
「……ふー……ふっ、ふー……」
苦しそうになる玲奈の息。それを支える幸子。
「準備は出来た。落ち着いたら行くぞ」
ベックマンが荷物を担いだ。既に陣痛間隔は5分で産婦人科には電話済みだ。
「ほら、ベック」
シャンクスがそっとベックマンに硬式のテニスボールを差し出した。
「?」
ベックマンは不思議そうにシャンクスから受け取ったテニスボールを眺める。
「これはな……」
こそこそと耳打ちをするシャンクス。
「…………そんな」
「いや、マジで。俺、手がつりそうになった」
「……」
「ま、頑張れよ!」
シャンクスはにかりと笑った。
「ベックマンさん」
シャンクスと入れ替わる様に幸子がベックマンを見上げる。
「初めての事だし、痛みを伴うのでどうしても不安でいっぱいなんです。どうか、玲奈の事を宜しくお願いいたします」
幸子は丁寧に頭を下げた。
「心得ているつもりだ。任せておけ」
ベックマンは柔らかく笑うと力強く頷いた。
「行くぞ、楽にしてろ」
「……っはい」
玲奈とベックマンを乗せた車は深夜の町を走り出した。
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