08
「お疲れー」
「お疲れ様でしたー」
珍しく就業時間に仕事を終わらせた春日は鞄を手に持ち、最初の方に会社を出た。
「今日はご飯作ろうかな」
最近はエースと外食か、春日の家で食べるかだった。
エースは頑なに春日を自分の家へには上げなかった。
春日はエースの家の位置さえ知らなかった。
「今日は中華丼にするんだー!」
スーパーから出てきた春日は機嫌良く袋を持って家の方へと歩いた。
「……あれ?」
向こうから歩いて来る男女の2人組を見た。
女の方は長いふわふわの金髪、華奢な腕を男の腕に巻き付けて仲良さそうに歩いて来る。
「…………」
春日はそれよりも男の方へと目をやった。
それは見間違えるはずもない、恋人エースの姿だった。
「っ!!……」
歩いて行くとエースもこちらに気付いたのか、驚いた顔をしてから視線を反らせた。
「…………」
それが答えのように思えた春日はエース達を見ないようにすれ違った。
「…………」
エースは一度だけ振り返ったが、春日は一度も振り返ることは無かった。
「エース?どうかした?」
金髪の彼女がエースを仰ぎ見る。
「…………いや」
エースは首を小さく振った。
春日は家に帰るとスーパーの袋をキッチンに置いた。
「…………はぁ……」
春日はキッチンから離れるとテレビを付けるとその前に座り込んだ。
「……ぐす」
お笑い番組が流れる中、春日の目から涙が流れ落ちた。
「…………解ってた事じゃない……エースには、彼女がいる事……」
春日はそう口に出しながら、流れる涙を乱暴に拭く。
「っうぅ……」
涙を拭くが、後から後から涙はこぼれ落ちてきた。
「……エース……」
春日はその晩、泣き続けた。
お笑い番組の声が虚しく響いていた。
「……お腹は減る」
泣き疲れて眠ってしまった後に、朝日に目を覚ました。
キッチンに行き、置いてあったスーパーの袋を手に取る。
そして、黙々と中華丼を作り始める。
野菜を切る間も、涙は後から流れる。
「……見えない」
涙を拭くが白菜を切っては、涙が溢れでた。
「……出来た。頂きます」
出来上がった中華丼を手に持ち、蓮華を動かす。
「っ!美味しい!ちょっと、しょっぱい」
涙が流れ落ちた中華丼はいつもより塩辛く、食欲が進んだ。
春日は次から次へと中華丼を口の中へ運んだ。
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