06
「キャベツも味噌汁も米もお代わり自由ってのが良いよな!」
運ばれて来たとんかつを頬張りながら機嫌良く声を出す。
店は全てが半個室になっていて、とても落ち着いた雰囲気だった。
「……ハムスター」
「は?」
春日のポツリと呟く声にエースが反応して顔をあげる。
「あ、……頬張り過ぎてほっぺたがハムスターになってるよ」
春日はクスクスと笑いながらエースを見る。
「……」
ごくんとエースは口の中の物を飲み込んだ。すると何故か真剣な表情をする。
「笑顔が可愛い」
「……へ?」
エースの言葉に今度は春日が不思議そうになる。
「いつも頑張ってる所が好きだ。仕事遅くて怒られて歯を食いしばって所も良い」
「あ、あの」
真剣な表情のまま繰り出されるのは春日を思うエースの気持ち。
「笑うと出来るえくぼも、そこにある大きなほくろも、何か知らないけどいつもどっかぶつけてる所も」
「……」
春日はとうとう口を閉ざしてしまった。
「全部まとめて好きだ。付き合ってくれ」
エースは箸を持ったまま頭を下げた。
「……」
春日はあまりの真剣なエースに前に見た金髪の彼女の姿を思い浮かべる事が出来なくなっていた。
「……わ、私で良ければ……」
春日は緊張しながら頷いた。
「ほんとか?」
エースはがばりと頭を上げる。
「……うん」
春日は恥ずかしそうに頷いた。
「っ!!やった!!!」
エースは両腕を高く突き上げた。ガチャンっとテーブルに腕が上がり、食器が音を立てた。
「ちょっ!」
春日は慌ててエースを落ち着かせようと両手を出した。
「っ!!」
エースは素早く動くと箸を持ったまま春日を抱き締めた。
「宜しく頼む」
耳元で聞こえるエースの声に春日の胸は高まった。
「……うん」
春日はそっとエースの背中に腕を回した。
「うー!満たされた!!」
とんかつ屋を出るとエースは大きく伸びをした。
「うん!美味しかった!」
春日も満足そうに頷いた。
「送る」
エースは言葉短く歩き出す。そのスピードはゆっくりで、春日の歩幅に合わせているとすぐに解った。
(ん?)
エースに着いて歩くとどんどんと怪しげな道に入る。
(ここって……)
「っひっ!!」
緊張し始めた所へ春日の腕はエースに掴まれた。
そこは見るからにホテル街。カップルが腕を組んでホテルを吟味しながら歩いていた。
「良いか?」
恐る恐るエースの顔を見ると怪しげに目に熱が籠っていた。
頷きかけてハッと我に返る。
「……き、今日は……その……」
春日はしどろもどろに声を出す。
「……ダメか?」
断られた経験が余りないのか、エースは首を傾げる。
「……」
春日は無言でこくりと頷いた。
「……」
「その!さっき付き合い出したのに!き、キスもしてないし!何より、ムードがないよ!」
春日は照れを隠すように早口で捲し立てた。
「……そっか」
うーんと首をかしげたエースはそう頷いた。
ーーチャララララーン
「悪っ」
エースはそう言うと携帯電話を取り出して眉をひそめる。
そして少し離れた所で電話をする。
(……怪しい。女の人の声も聞こえるし)
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