05
「何なんだろう……」
確かにあの時見たのはエースと金髪の女性が腕を組んで歩いている所だった。
「もしかして……見間違い?」
春日は枕を抱き締めてベッドの上で転がった。
「それとも…………浮気したいとか?」
春日は悶々と暗い部屋でゴロゴロとしていた。
電話の向こうの声は親しそうな女のものだった。
既に時計は午前1時を指していた。
「はっ!明日も仕事だ!早く寝なきゃ」
そう言いながらも全然寝付けない春日だった。
「おはよー……」
「おはよう!って!前にも増して凄い顔!!!」
同僚は驚いて春日に声をかけた。
「おー!おはよー」
「あら、エース!って!あんたも珍しく隈!!何?流行ってるの?」
同僚はエースを見て驚いて声を上げた。
「いやー、何か寝付けなくてさ」
エースは笑いながら頭をかいた。
「お昼だー」
春日は思い切り伸びをした。
「春日!飯いくぞ!」
「へ?」
春日が財布を取り出した所で後ろから声がかかった。
「あらー、何?2人でー」
同僚がニヤニヤと笑って春日を引くエースを見る。
「いや、今さ落とし中」
エースはさらっとそんな事を言う。
「えぇ?!」
春日は驚いてエースを見上げる。
「そうなのー?頑張ってー!」
同僚はニヤニヤと笑ったままエースに手を振る。
「おう!」
開き直ったエースはにかりと笑うと春日を会社の外へと連れ出した。
「牛丼には生卵だな!」
エースは嬉しそうに牛丼の中の生卵をぐるぐるとかき混ぜた。
「うん!私はやっぱり七味唐辛子!」
春日は牛丼に七味唐辛子を入れた。
「良いな!俺にも」
「はい、どーぞ」
手を出したエースに春日は七味唐辛子の入った小瓶を渡した。
「良いな、こう言うの」
エースはにかりと笑うと七味の小瓶を受け取る。
「何?」
「夫婦みたいじゃねェか?」
「げほっ!!」
エースの言葉に春日はむせた。
「…………昨日の……」
春日は牛丼を口に入れながら口を開く。
「ん?」
「本気?」
もぐもぐと口を動かすエースに春日は真剣に聞いた。
「ん」
エースはごくりと牛丼を飲み込むと水を飲んだ。
「本気」
エースはじっと春日を見つめ返した。
「……そ、そう」
春日はエースの真剣な眼差しに照れて、牛丼に視線を戻した。
「ふー!ごちそうさま!」
エースは手を合わせて頭を下げた。
「速っ!!」
春日は驚いてエースのどんぶりを見てから自分も急がないとと箸を動かす。
「ゆっくりで良いよ」
エースはあははと楽しそうに笑った。
「ん!」
春日は返事をしながらも牛丼を口いっぱいに入れた。
「あはは!良い顔だな!」
エースはケラケラと楽しそうに笑った。
「春日ー!帰るぞー」
「……」
「ほら!早くしろ!」
エースは春日の腕を引っ張る。周りの人間は微笑ましく2人を見送った。
「あー、腹へったなァ」
エースは腹の辺りを擦った。
「お昼あんなに食べたのに……」
「それって何時間前だよ」
エースはケラケラと笑った。
「とんかつだな!よし!この店にしようぜ!」
エースは上機嫌にとんかつ屋へと足を踏み入れた。
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