04
「ほんじゃま、かんぱーい!」
「か、かんぱい……」
機嫌良くエースは春日の持つグラスに自分のグラスをぶつけた。
「っかー!うまい!!!おやじー!お代わりー!!」
エースはカウンターの奥にいる店主に叫んだ。
ネクタイを緩め、上着を脱ぎ、ワイシャツの腕を捲った。
「さーて、食おう!このモツ煮もだし巻き玉子もうまいぞ!」
上機嫌に春日に進めるとエース自身も箸を動かした。
「……っ!本当に美味しい!」
春日は腹が減っていた事もあり、余計に美味しく感じていた。
「だろ?ほら!飯にも合うから!」
エースは山盛りの白い米を春日に持たせると自分もどんぶり飯をかっ込んだ。
「……ふふ」
その素晴らしい食いっぷりに春日は思わず笑ってしまう。
「お!やっと笑ったな!」
エースはにかりと笑い、口いっぱいの物をごくりと飲み込んだ。
「え?」
春日はそれが急に恥ずかしくなり片手で頬を押さえる。
「いつも笑顔で仕事してたのに、急に元気なくなるし、失恋したって言うし、心配した」
エースは真剣な表情で春日を真っ直ぐに見た。
「……すみません」
あまりにも真っ直ぐに見られるので、春日は恥ずかしくなりエースから目を反らせた。
「ま、正直チャンスではあるけど」
「?何か?」
「いや!」
店のがやがやとした喧騒の中春日にはエースの声が聞き取れなかった。
「よし!食え!食って元気になれ!すみませーん!焼き鳥盛り合わせと枝豆と刺身とー!」
エースは追加で次々に料理を注文した。
「もー!さすがにお腹一杯です!」
春日はフラフラとしながら休日の夜の町を歩いた。
「大丈夫かー?」
エースは両手をポケットに突っ込んだまま春日の隣を歩いた。
「大丈夫ですよー!楽しかったー!」
春日は程よいアルコールでにこにこと笑っていた。
「そうか?良かった!」
エースも春日の笑顔に合わせて笑った。
「ありがとうございます!私が落ち込んでたから、昨日も幹部飲み会に誘ってくれたんですよね?それに今日も」
春日はエースを振り返る。
「おう」
エースは少し照れたように頷いた。
「でも、もう大丈夫です!吹っ切れましたから!ありがとうございました」
春日はエースに向かって深々と頭を下げた。
「お、おう!」
エースは照れながら頷いた。
「さー!新しい恋でも探すぞー!」
春日は両手を空に突き上げた。
「それさ」
「あ、お疲れ様でした!」
エースの言葉を遮る様に春日は笑顔でエースに手を振る。
「待て待て」
エースが春日の手を取った。
「はい?え?あ!まさか割り勘でしたか!すみません気付かず!!」
春日が慌ててバッグから財布を取り出す。
「違ェーよ!そこは奢る!」
エースは慌てて春日を制する。
「えーっと?じゃあ……」
春日は不思議そうにエースを見上げる。
「だから、さっきのに立候補!」
エースが手を挙げる。
「さっき?」
春日は不思議そうにエースを見る。
「あァ……」
エースはじっと春日を見る。
「新しい恋の立候補」
エースはピシッと手を挙げた。
「……」
春日は驚いてエースをジーっと見た。
「……」
エースはじっと春日と見つめ合う。
ゆっくりとエースは腰を屈めると春日の顔に自分のそれを近付ける。
ーーチャラララララーン
「っ!!」
「……悪ィ」
数センチで唇同士が重なりそうになるタイミングでエースの携帯電話が鳴った。
「チッ!なんだよ!」
エースは名前を見て舌打ちしてから不機嫌そうに出た。
微かに聞こえてきた声は女のものだった。
「悪いな!」
エースは電話を切るとポケットに携帯電話を突っ込んだ。
「い、え!あ! 私!帰ります!」
春日は真っ赤な顔でそう早口で捲し立てた。心臓は壊れそうな程速いスピードで脈打っていた。
「え?!あ!おい!!」
エースが手を伸ばすがすでに届かなかった。
「さっき言ってた事考えてくれなー!」
エースは大声で春日の背中に叫んだ。
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