03
「……ふぅ」
休日出勤は午前中だけで済み、春日は小さく息を吐いた。
二日酔いと寝不足、空腹のせいで目眩すらした。
「早く帰って寝よう」
春日はバッグに荷物を詰め込むと人気のないフロアーから外へ出た。
「お!いたいた!」
近付く人影はあったが、体調の良くない春日は気付かずにいた。
「おい!春日待てって!」
「うわっ!」
急に肩を引かれて春日はバランスを崩した。
「っと、大丈夫か?」
春日の体をがっしりと支えていた男が声を掛けた。
「すいません!ありがとうございま……」
春日は慌ててその男から離れると、そこにはエースが立っていた。
「おい、大丈夫か?顔青いぞ?」
エースは心配そうに春日の顔を覗き込んだ。
「だ、大丈夫。それより何か?」
春日は胸が高鳴るのを感じたが、失恋したんだと自分に言い聞かせた。
「ああ!そうだ!これ」
エースがズボンの後ろのポケットをごそごそとさがして、ある物を取り出した。
「あ……え?」
春日は驚いてそれを見た。見間違えるはずもない、無くなったと思った自分の部屋の鍵だった。
「ほらさ!さすがに玄関鍵閉めないとだろ?」
エースは言いながら鍵を春日に手渡した。
「あ、ありがとう……。って!まさか!!」
春日は驚いてエースを見上げる。
「お前、飲み過ぎ!いくらオヤジに言われたからってな!サッチだったら喰われてたぞ!」
エースはムスっとした顔で説教染みた声を出した。
「くわ、……サッチ部長に失礼です」
春日は困ったように笑った。
「お前な、少しは危機感を持てって!」
エースは腕組みをした。
「ありがとうございました」
春日はエースの優しさに胸を温かくしながら頭を下げた。
「いや、それよりこの後暇か?」
エースは小さな声を出した。
「……」
彼女がいるのにエースは何だろうと春日はエースを見上げる。
「へ、変な意味はねェぞ!うん!」
エースは慌てたように顔を赤く染め頷いた。
「調子が悪いので……」
ーーぐーー
春日が断りの言葉を口にしようとしたら、盛大に腹の虫が鳴った。
「っ!!!」
「あはははは!!!」
春日は顔を真っ赤にして腹を押さえ、エースは大きな声で笑った。
人のいないフロアーはエースの笑い声が響いた。
それがさらに春日の羞恥心を煽った。
「調子が悪いのは腹が減ってるせいか?行くぞ!」
エースはニヤリと笑うと春日を連れ立って会社を後にした。
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