09
「なァ、春日知らねェか?」
朝、出勤したエースはいつもの席に春日がいない事に気付いた。
「ん?あぁ、あの子今日は半休」
同僚がパソコンから顔を上げ、春日の席を見てからエースに振り返った。
「半休?」
「そう。珍しいよね!」
同僚も珍しそうに春日の席をもう一度見ると、仕事へと戻った。
「……半休……」
エースはポツリと繰り返すと時計をチラリと仰ぎ見た。まだ始業開始時間を少し過ぎた頃だった。
半休となると、まだ数時間はかかる。
「……」
エースは仕方なく自分の席へと戻った。
「おはようございまーす」
昼休みを終えて帰ってくるとちょうど春日が出勤して来る所だった。
「春日!おはよ!」
エースが笑顔で声をかけると春日の肩がびくりと大袈裟に震えた。
「あ、おはようございます」
春日はエースに視線を合わせずにそれだけ言うと「部長に挨拶してきます」とサッチの席へとそそくさと足を速めた。
「あ、おい……」
春日の余りの顔色の悪さにエースはそれ以上声をかける事が出来ずにその背を見送った。
「なぁ!」
「あ!部長!」
「……」
エースの声を無視するように背を向ける春日。
「……はァ……」
エースは半日の内に6度春日に無視をされた。
さすがに堪えたのかエースは大きくため息をついた。
そして就業時間になり、春日は足早に職場を離れた。
「エース!これから飲みに行くぞー!」
機嫌良くサッチがエースの肩に腕をかけた。
「悪ィ!俺帰る!」
エースはサッチの手を乱暴に振り払うと春日を追いかけた。
「なんでー!ツレナイ奴!!」
サッチは不満げに唇を尖らせた。
エースはエレベーターホールに着き、エレベーターが無いことを確認すると舌打ちと共に階段を駆け下り始めた。
飛ぶように下りると出口で春日の後ろ姿を見付けた。
「っ!待ちやがれ!」
エースは切れる息を無視して全力で春日を追いかけた。
ビルから飛び出るとキョロリと目を動かして春日の姿を探す。
すぐに見付けると地面を蹴り、追いかけた。
「待てって!」
「きゃっ!!」
エースの手が春日の肩を捕らえて歩みを止めさせる。
「え、エース……」
春日は驚いてエースを見てからサッと目を反らした。
「俺の事避けてるだろ?」
エースは真剣な顔で春日を見る。
「……」
春日は無言で足元を見た。
「何でだ?どうした?」
エースは春日に聞く。
「っ!!!」
春日はエースの言葉に堪えきれずに手を振り上げた。
だが、叩こうとした手はエースの手に簡単に捕まってしまう。
「す、素直に殴らせなさいよ!」
春日は詰まった声でエースを睨んだ。
「何で?!そんなにデートすっぽかしたの怒ってんのかよ?!」
エースは訳が解らずに春日を見下ろす。
「そん、そんな、事!!!」
春日はもう片方の手も振り上げたが、同じようにエースに手首を捕まれた。
「じゃあ、なんだ?俺を叩きたいほど怒ってんだろ?」
エースは冷静に春日を見下ろした。
「……初めから」
「ん?」
「初めから、浮気相手が欲しいなら欲しいって言えば良かったじゃない!!そう言ってれば貴方と付き合うなんてしなかったのに!!」
春日は感情的に言葉を吐き出した。
「は?」
エースはポカンとした。どうやら何を言われたのかが理解できない様だ。
「わ、私は二股掛けられても良いなんて考えは持ってないの!悪いけど、他を当たって!」
春日は捕まれた両手を振りほどこうともがくが、エースの手はびくもとしなかった。
「……ふた、また?」
エースはポカンとしたまま首を傾けた。
「あの金髪美人とイチャイチャしてれば良いじゃない!あんなにくっついて歩いて!」
春日はとうとう泣きながら叫んだ。
「…………?……あー……あー!あー!!!」
エースはようやく解ったのか大きな声を出した。
「来い!」
「え?」
「こっちだ!」
エースが春日の片方の手だけを引く。
「や、やだ!!」
春日は拒否をするようにその場から動かずに首を左右に振る。
「ダメだ!俺と来い!」
エースは無理矢理春日を引っ張ると走り出した。
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