03

「新しい問題集買うから!」

模試も終わり、息抜きがてら少し本屋に寄る事になった。

「休みの日まで模試なんだから、本当に受験生って嫌よね」

友人は問題集を選びながらポツリと呟く。
既に試験本番まで数えるだけの日々。やる事はやっていても、やり続けなくては行けない気持ちが出てくる。

「合格すれば憧れのキャンパスライフ!失敗すれば浪人生活……。この嫌な緊張をもう一年やるのは辛すぎるよね」

友人ははぁと大きくため息をついた。

「絶対合格しなきゃね!」

逢もシャンクスとの街中デートを目指して意気込んだ。





「じゃあ!私は予備校寄ってくねー!」

「うん!また月曜日に!」

友人と別れ、逢は家に帰ろうと駅へと足を向けた。

「確かこっちが近道だよねー」

前に通った近道をしようと逢は路地へと足を向けた。

(うわ……前より治安悪いのかな……)

中学生の頃に通った時より暗く、汚い道には数人の不良がいた。
逢は足早にそこを通り抜ける。

「待ってよ」

ニヤニヤと男の一人が逢の前に立ちはだかった。

「……何か?」

逢は恐怖を感じながらも男を見上げた。

「あ、さっき模試受けてたよね!俺も同じー!」

男はニヤニヤと笑う。

「……」

「受験生は辛いよねー!で、ちょっと鬱憤を晴らさない?」

「……間に合ってます」

逢はそこから逃げるように男の横を通り抜けようとした。

「待ってよー」

男は逢の手首を掴む。

「は、離して!」

振り払おうとした手は思いの外強く、離れなかった。

「離して!だって!可愛いー」

男にばかり気を止めていたら、いつの間にか他の不良にも取り囲まれていた。

「っ!離して下さい!」

逢は気丈に男を睨み付けた。

「お?御守りだってさ!」

「っ!!ダメ!!」

「なんだよ、大事なのか?」

男はニヤニヤと笑いながらお守りを無理やり逢の鞄から引っ張った。

(シャンクス先生から貰った大切な!!!)


ーーピーーーー!!!!


突然耳をつんざく様な大きな音が鳴り響いた。

「な、なんだ」

「うるせぇ!!!」

「これか?!」

思わず耳を押さえる不良達。音の発信源はシャンクスが渡したお守りのようだ。

「こ、これ?」

逢が不良から取り返したお守りをオロオロと見下ろす。

「やっぱなー。隙があり過ぎだ」

突然表れた声に驚いて顔を上げると、どこから現れたのか、紙袋を抱えたシャンクスが立っていた。

「せっ!?」

「こうするんだ」

シャンクスは落ち着き払った声と動作でお守りを元の鞄に付いていた根付けの部分にくっ付けた。すると、激しい音は嘘のように収まった。

「オッサンの仕業か?!」

不良がシャンクスを睨み上げた。

「おう!大事な女が危険な目に合っても困るだろ?」

シャンクスはニヤリと笑う。
逢はその顔が恐ろしく見え、背筋がぞくりとした。

「じゃ、お前らも受験頑張れよー」

シャンクスは逢を促すとそのままその場を後にした。
不良達はシャンクスの雰囲気に飲まれ、誰一人として動けずにいた。





「はぁ……」

「せんせ」

シャンクスは人差し指を立てて逢の言葉を止めた。

「外で他に生徒がいない時は名前で呼べ」

シャンクスは呆れたように逢に言う。

「しゃ……シャンクス……さん?」

逢は違和感と恥ずかしさからおずおずと声を出す。

「……お、おう。何だ?」

言わせておいて、シャンクスは逢が自分を名前で呼ぶのにぞくりとした。

「どうしていたの?」

逢は照れを隠すように早口で聞いた。

「あァ。模試って知ってたからな待ってた」

シャンクスは言いながら紙袋を上げた。
逢には意味が分からなかったが、どうやらパチンコをしていたらしい。それで、勝ってしまい、止めるに止められず、模試の時間が終わり、本屋から出てくる所をたまたま見付けたようだ。

「ふーん」

「ふーんってな!」

シャンクスはだっはっはっ!!と笑った。

「街中デートは大学受かってからじゃなかったの?」

逢は嬉しい気持ちと不思議な気持ちでいっぱいだった。

「まー、何だ。でも、無事で良かった」

シャンクスは周りに誰もいないのを確認して逢を抱き寄せた。

「っ!!!」

「大学、合格しろよ、な?」

初めて抱き締められた事と、シャンクスの耳元で聞く妖艶な声色に逢の頭はショートした。











シャンクス先生!











「ダメだな。やっぱり本気になっちまいそうだ」

「ん?何か言った?」

「……いや?」

「そう?」

「オッサンのマジ惚れ、覚悟しろよ」

「ん?やっぱり何か言ったよね?」

「クックックッ!いーや!」

「変なシャンクスさん」

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