02
「じゃあ!先生!また明日!」
「おー!気ィ付けて帰れよー」
職員室の前でシャンクスと別れると逢は上機嫌で生徒用下駄箱へと行く。
「あ、そう言えば」
逢は靴を履くと職員用玄関へと向かう。
「これでよし!」
誰もいない事を確認するとシャンクスの下駄箱に物を入れ、駐輪場へと走る。
「早く受験に受かって大学生になりたいなぁ」
逢は自転車の鍵を外し、自転車に股がると家路を急いだ。
「ん?」
帰り支度を済ませたシャンクスが下駄箱を開けると何かが入っていた。
「何だ?」
プレゼントの様な紙袋を持ち、玄関を出る。職員用駐車場に行き、車に乗る。
「あいつ……」
逢からだと一目で解る絵が描かれた手紙には『チョーク入れに使ってね(ハート)』と書かれていた。
「これを俺に持てってか」
シャンクスは笑いながら袋から小さな箱を取り出した。
可愛らしい黒猫が描かれたプラスチックの箱だった。
翌日、逢のクラスでの現国の時間。シャンクスはチャイムから遅れる事3分で教室にやって来た。
「おーし!お前ら席に着けー!」
シャンクスは教科書やノートと一緒に黒猫のチョークケースを机に置いた。
「っ!!!」
それを目敏く見付けた逢は嬉しそうにニコニコと笑った。
「先生ー!これわかんなーい!」
木下と言う女子生徒が授業が終わるとシャンクスに駆け寄った。
「わかんない?今教えただろ。これが」
シャンクスの説明を聞いて女子生徒がシャンクスをうっとりとした顔で見る。
「先生これ可愛ー!」
「お前、聞いてたか?」
女子生徒が黒猫のチョークケースを手に取った。
「えー!聞いてた!ねえねえ!これ可愛い!ちょうだい!」
(え?)
女子生徒の言葉に逢が思わずそちらを向く。
「何でだよ。チョークケースなんて使わねェだろ?」
シャンクスは呆れながら女子生徒を見る。
「使わないけど!欲しい!ねぇねぇ!良いでしょ?」
女子生徒が可愛らしくチョークケースを胸に抱く。
「しょーがねェなァ」
「っ!!!?」
シャンクスの言葉に逢は信じられない様な気持ち悪さが胸を襲った。
「なーんて言うか!これは俺の恋人がくれたからやれねーよ!」
シャンクスはニヤリと笑うとチョークケースを奪い返した。
「っ?!っ!!!」
驚いて俯いた顔を上げると一瞬シャンクスと目が合った。
「えー?!誰?何よそれ!!」
女子生徒はシャンクスを非難するように金切り声を出す。
「教える義理はねェよ!じゃ!ちゃんと次の授業の支度しろよ!あ!□□!!」
「え?は、はい?!」
突然呼ばれて□□は席を立つ。
「国語係だろ?昼休み準備室まで来てくれ」
「わ、わかりました」
「それじゃ!」
シャンクスはそれだけ言うと教室を出て行った。
「やだ!あのオヤジ!信じらんなーい!」
女子生徒は不機嫌そうに自分の席へと帰って行った。
逢は大急ぎでお弁当を食べ終わると国語科準備室へと急ぎ足でやって来た。
「シャンクス先生はいますか?」
ドアをノックして部屋へと入るとシャンクスしかいなかった。
「おう!□□。早いな!」
シャンクスはもぐもぐと注文したと思われる弁当を食べていた。
「急いじゃった!」
逢は照れを隠すように笑った。
「悪いけど、少し待っててくれ」
シャンクスは言いながら隣の椅子を引いた。
逢は少し緊張しながらその椅子に座った。
「ニヤケ過ぎ」
「えぇっ?!」
シャンクスの言葉に逢は両手で両頬を触った。驚くほど熱かった。
「バレるんじゃないかって冷や冷やした」
クックックッと楽しそうにシャンクスは喉を鳴らした。
「んー!だって!先生がちゃんと言ってくれたから」
逢は顔を真っ赤にしたまま嬉しそうに笑った。
「これな、ありがとう」
シャンクスは黒猫のチョークケースを指差した。
「使ってくれて嬉しい!」
逢はニコニコと上機嫌で笑った。
「そう言えば先生が出てった後『オヤジ!』って言われてたよ」
逢は真面目に報告する。
「だっはっはっ!!そりゃそうだ!!」
シャンクスは笑いながら弁当を食べ進めた。
「そ、そう言えば用は何?」
「ん?」
「国語係」
逢は自分を指差した。
「あァ、特にない」
シャンクスはもぐもぐと弁当を食べ終えてお茶を飲み干した。
「え?」
「今日国語科の先生が俺以外みんな出払ってたからたまには、な」
「……」
シャンクスは「ごちそーさん」と手を合わせた。
「おーい!帰って来ーい!」
シャンクスは顔を真っ赤にしている逢の顔の前で手を振る。
「はっ!!だ、だって!シャンクス先生が……」
逢は熱い顔を両手で押さえた。
「ほら」
「?」
シャンクスは鞄の中からごそごそと小さな紙袋を取り出した。
「お礼」
シャンクスはそう言いながら紙袋を逢の手の上に乗せた。
「……お守り!」
袋から出て来たのは学業成就のお守りだった。
「模試頑張れよ」
「っはい!!!」
シャンクスの穏やかな笑顔に逢は元気に頷いた。
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