03
翌日の午後。萌はいつものように畑で草むしりをしていた。
昨日会ったサンジと言う男に人生初のナンパを受けて戸惑った。
「誰にでも優しいから」
店主の言葉に胸に棘が刺さったように痛んだ。
初めて男にそう言う好意を向けられた。
とても恥ずかしかったが、素直に嬉しかった。
色々考事をしていた萌の肩が叩かれた。
驚いて振り返ると金髪のサンジと言う男が立っていた。
萌は急いでメモ帳を取り出そうとすると、サンジに優しく手で止められた。
『萌さん』
何だろうとサンジを見つめると自分の名前を手話で呼ばれて。
「……っ?!」
驚いて固まっていると
『俺の手話間違ってる?』
サンジは苦笑しなから手を動かした。
「っ!!」
萌は頭をブンブンと左右に振った。
『良かった』
サンジはにこりと笑った。
『君と話がしたくて、習った』
『何で?』
サンジの言葉に萌は素直に聞いた。
『言ったろ?君と話がしたかったんだ。可愛くて、あんなに素敵な野菜を作る君はとても素敵な女性だからさ』
サンジは穏やかな笑顔で手を動かし続けた。
「……」
野菜作りを褒めてもらった事と“可愛い”の単語に顔を赤くする萌。
『君は本当に天使の様だ!外側だけでなく、内側からにじみ出る雰囲気も素敵だ!!』
ノッテ来たのか、サンジの手話が大きくなる。口からももちろん同じ言葉が声となって出ていた。
『俺達と来ないか?こんな出会いは2度と無い!!!』
サンジは自分を指差し、次に萌を指で指す。
そして、左手で拳を作り、右手は左手をそっと撫でた。
「っ!!!!」
ボンっ!!と音がするように顔を真っ赤にする萌。
「…………」
「待って」
何かを伝えようと手を動かそうとした萌を言葉と手でサンジが止めた。
『俺達は明日、出航する。その時に答えを聞かせてくれ。君の人生を左右する』
サンジの手話はつたなさを残していたが、萌の心にじんわりと優しい気持ちを溢れさせた。
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