04

私は震える体を何とか動かして後ずさる。
年はきっとえらい事離れている。

なのに……

「逃げる事はない」

声に、仕草に、その瞳に流されてしまいそうになる。

私はとうとうベッドの上で壁まで追い込まれてしまった。

「……あ、あの……」

すぐ近くで聞こえるレイリーさんの息遣いに胸が跳ねる。

「大丈夫だ」

レイリーさんの声と共に顔が私に近付いてくる。私はとっさに目を固く瞑って顔を伏せた。

「忘れる事は簡単だ」

そう言われながら耳にキスされる。

そうか……忘れる……シャンクスさんを?

「わ、」

「ん?」

「忘れないとダメ……ですか?」

私は流れ落ちる涙をそのままにレイリーさんの顔を見上げた。

「も、もう、シャンクスさんは……」

「……」

私の顔を苦しそうに見たレイリーさんが無言で私をベッドへと引きずり倒した。

「……っ」

レイリーさんの唇が私の鎖骨辺りを這うと甘い痛みがした。

私はそれに身を任せる様に瞼を閉じた。


思い出すのはシャンクスさんの熱の籠る赤い目だった。






***






ーーダダダダダダダッ!!


廊下を物凄い速さで走る音が聞こえてきた。

ガタンっ!!激しい音と共に扉が開かれた。

「KATINKA!!!」

扉を開けたのは汗をかいて、肩で激しく息をするシャンクスの姿だった。

「……しゃ」

シャンクスが見た光景は恩師レイリーにベッドへと押し倒されている愛しいKATINKAの姿。

「っ!!レイリーさん!!アンタ、何してんだ!KATINKAから離れて下さい!!」

シャンクスはあっと言う間にベッドへと駆け寄るとレイリーを手荒くベッドから下ろした。

「やれやれ、余裕のない男は嫌われるぞ」

レイリーはケロリとした顔でベッドから離れた。

「KATINKA大丈夫か?」

シャンクスは慌てた様子でKATINKAをベッドの上に座らせた。

「しゃ、シャンクス……さん?」

KATINKAは、呆然とシャンクスを見る。まるで幽霊か何かを初めて見る、そんな顔だ。

「あっ!!ったく!レイリーさん!こいつはアンタのじゃないんだから!ここに痕なんか付けないで下さい!!」

シャンクスは荒っぽい声でKATINKAの鎖骨辺りに付いた痕を擦る。

「擦っても無駄だよ。まァ、1週間もすれば落ちるだろう」

レイリーは悪びれる気もなく笑った。

「1週間?!……ったく」

チッと舌打ちをするシャンクス。

「しゃ、シャンクス……さん?なんで?」

呆然と自分を見続けるKATINKAにシャンクスは気付いた。

「あァ、ただいま!お土産買ってきたぞ!ほら!」

シャンクスは上機嫌に鞄から怪しい木彫りの人形を取り出した。

「安産祈願だと」

シャンクスから人形を受け取ると疑問符が沢山浮いたKATINKAはジッとそれを見つめた。

「……お守りよりも呪いみたい」

KATINKAはポツリと呟いた。

「だっはっはっ!起源はどちらも一緒だ」

シャンクスは楽しそうに笑った。

「……って!じゃなくて!何で?シャンクスさんが?」

「は?」

KATINKAの驚いた表情にシャンクスは不思議そうにする。

「だ、だって……シャンクスさんは私に飽きたんでしょ?」

KATINKAの泣きそうな顔にシャンクスは慌てる。

「なんでそうなる?ちょっと秘境に出張だったから1ヶ月会えなかっただけで」

「え?」

シャンクスの言葉にKATINKAが固まる。

「手紙書いただろ?」

「手紙?」

「あァ」

シャンクスの言葉にレイリーが思い出した様に声を出す。

「これだろう?」

レイリーはKATINKAのタンスを勝手に開ける。

「れ、レイリーさん!」

勝手にプライバシーを覗かれた様にKATINKAが狼狽える。

レイリーが手紙の束を手にした。

「え?な、何でそんな所に?」

KATINKAは驚いて手紙を受け取る。

「『1ヶ月帰って来られないが土産を買ってくる。心配しないで待ってろ』……」

KATINKAはシャンクスを見上げる。

「レイリーさん……」

シャンクスがじとっとした目でレイリーを見る。

「おや?言ってなかったかな?」

レイリーがにこりと笑った。

「わざと……」

シャンクスが呆れた様に声を出す。

「ふふふ、お前が囲うのがどんな娘さんか見てみなくてか。好みだ」

レイリーは高らかに笑った。

「ったく……」

シャンクスはため息をついた。

「KATINKAくん」

「は、はい?」

急に呼ばれてKATINKAはレイリーを見上げた。

「また年寄りの相手をしてくれ」

レイリーはにこりと笑った。

「は、話し相手で良ければ」

KATINKAは顔を赤くして困った顔をした。

「これは、手厳しい」

ハハハとレイリーが笑う。

「悪いが、そう言う相手は他を当たって下さい」

シャンクスはやれやれとレイリーを見た。

「ふふ、それでは失礼するよ」

レイリーは笑顔で去っていった。

「……シャンクス……さん」

「おっと」

抱き付いて来たKATINKAをシャンクスが受け止める。

「悪かったな。ちゃんと伝えてから行けば良かった」

シャンクスはクスリと笑いながら謝罪を伝える。

「……」

KATINKAは無言で首を左右に振る。

「可愛いな」

シャンクスはニヤリと笑うとKATINKAを強く抱き締めた。

「しかし、俺以外の男に触らせたんだな?」

シャンクスの声にKATINKAは背中をゾクリと冷や汗を流した。

「え?ふ、不可抗力……」

KATINKAは顔を引き吊らせてシャンクスを見た。

「痕まで付けられやがって……」

シャンクスは乱暴にKATINKAの服を脱がせにかかる。

「あ、あの!」

「こっちは1ヶ月お預け喰らってるってのによ」

KATINKAの声を無視してシャンクスは器用に服を脱がせた。

「悪いが、手加減してやれないからな」

シャンクスは獣のような顔付きでそう、言葉を出した。











偽りの情報












「……」

「大丈夫か?」

「……そう言えば」

「ん?」

「生理来てるよ」

「知ってる」

「へ?」

「まァその内役に立つだろ?」

「……」

「なんだよ?嫌なのか?」

「……それより、まだ出られないの?」

「それより?……まだ」

「……散歩くらい行きたいなぁ」

「……」

「ダメ?」

「……ドライブくらいなら」

「本当?」

「……ドライブだけならな」

「今はそれで良いよ」




KATINKAの監禁生活はまだ続く様です。

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