03
「おォ、どんな人間がこの部屋を使っているのかと思い来てみれば、これは可愛らしいお嬢さんだ」
入って来たのは丸眼鏡に白髪の長髪のおじいさんだった。
「……?」
私は誰だろうと思いながらつい無言で初めて見るその人をじっと見た。
「名乗らずに失礼、私はレイリーと言う者だ」
そう言うとにこりとレイリーさんは笑った。
「あ、KATINKAと申します」
私はレイリーさんに習い、名前だけの自己紹介をする。
「シャンクスの奴は相当君が気に入っている様だね。こんな所に閉じ込めて」
レイリーさんは顎を撫でながら私の部屋と化した監禁部屋を見回した。
「あ、いえ。これには訳がありまして……」
私はこれまでに起こった会社の社長の話をした。
「そうだったのか……。それは私のせいで怖い思いをさせてしまったようで、すまなかったね」
レイリーさんはベッドの端に腰を下ろして私の話を聞き入っていた。
「……レイリーさんのせい?」
私は不思議に思ってレイリーさんを見た。
「あァ。私がちょっとギャンブルをやり過ぎてしまってね。金を少し借りたのだが……」
レイリーさんは言いながら豪快に笑った。
…………って事はシャンクスさんが言ってた恩人って、この人の事?
「それであの馬鹿社長から逃げている…………と言う設定なんだね?」
レイリーさんは私の顔をまじまじと見る。
うわ……この人おじいさんなのに、何て言うか色気駄々漏れ……。
「せ、設定と言うか……」
私はレイリーさんから逃げるように身を引く。
「だが、あいつは…………」
レイリーさんは言いながら何かを考えるように顎を撫でた。
「そうか、野暮な事は無しだな」
クスリとレイリーさんは笑った。
「年を取ると人恋しくていかんね。どうかな、お嬢さん。この私の話し相手になってくれないかね?」
レイリーさんはにこりと穏やかな笑みを見せた。
「私で良ければ喜んで!最近話し相手もいなくて暇だったんです!」
私はレイリーさんの申し出に二つ返事で頷いた。
それから、レイリーさんは夕方頃にやって来るのが毎日の日課になった。
いつもは美味しいご飯だけだが、レイリーさんのおかけで美味しいお菓子にもありつける事が多くなった。
「ん!このワッフルふわふわで美味しいです!」
私はレイリーさんの持ってきたワッフルを頬張りながら言う。
「喜んでもらえたなら私も嬉しいよ」
レイリーさんはにこりと笑うと私の淹れた紅茶を飲んだ。
うん、何て言うんだろう?気品溢れる?話していても下品でない。落ち着いていて、楽しい。
シャンクスさんとはまた違った魅力を持つ人だ。
さぞ、若い時はモテただろうなぁ。と簡単に想像できる人だ。
「シャンクスとバギーの話はしたね?」
レイリーさんは早速シャンクスさんの昔話をし始める。
「はい!『北極と南極どっちが寒いか』で喧嘩したんですよね?」
私はクスクスと笑いながら応える。
「そうだ。反りが合うのか合わないのか……。仲良くやっていてね。喧嘩をしていたと思ったらすぐに将来の夢を語り合う。何だか奇妙な関係だったよ」
レイリーさんが昔を懐かしむ様に笑った。
「ふふ、シャンクスさんは強引と言うか、自分を曲げないから無理矢理人の心に踏み込んできて……。それでも憎めないとか、特な人柄……ですね」
私はその気は無いのに鼻の奥がツンッとして、目から涙がこぼれ落ちた。
「……」
「え、えへへ、可笑しいですね、涙なんて」
レイリーさんに見つめられ、私は恥ずかしいやら情けないやらで余計に涙が落ちた。
「うう……」
私は涙を止めるのを諦めて顔を手のひらで覆った。
「KATINKAくん」
レイリーさんの近付く気配にそっと顔を上げた。
レイリーさんは私の髪を手で掬うとそのまま自らの唇に押し付けた。
「へ?」
私は驚きと、艶かしいその行動にどぎまぎとしてしまう。
「君を苦しめるそんな男、忘れてしまいなさい」
ちゅっと音を立てて私の耳にキスが落とされた。
「…………っ!!!!」
事態を理解するまで数秒遅れた。理解すると首や耳まで真っ赤になるほど熱くなる。
「真っ赤になって、何て可愛らしいお嬢さんだ」
先程までの笑顔ではなく艶を孕んだレイリーさんの笑顔が私の動きを封じた。
「っ!いや、……そ、そんな、事は……」
いつの間にか涙なんて引っ込んでいた。
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