05
ここに来るのは二回目だと○○はこっそりとため息をつく。
近くのスーパーで食材を買い、彼の家に行く。
(まるで新妻か面倒見の良い彼女だ)
○○は自分を皮肉げに見る。
前回は逃げるようにして去った高級マンションは、一般庶民の○○からしたら、意味の分からない設備が多い。
何でも、ラウンジやバー、小規模ながらスポーツジムまで付いているらしい。
(一体いくらするんだろう)
独身、平社員、一人暮らしの○○に取っては全く関係ない場所である。
(セキュリティも万全って、誰から守る気だ。やっぱり白髭は裏に何が付いてるか分からないって?)
○○はただのひがみだとまた小さくため息をつく。
「どうした?疲れたかい?」
先を歩くマルコが聞く。
「…………凄い高級マンションだなーと、思ってました」
「正直だねい」
マルコが上機嫌で笑う。
「こんなとこ入る機会さえ無いですからね」
○○は軽い頭痛に悩ませる様に頭を押さえる。
「入ったろい。この前」
マルコはじろりと○○を振り返る。
丁度部屋に着き、ドアを開ける。
そして、中に入る。
○○も玄関に入り、ドアを閉める。
「……正直言いますと、記憶に無いです」
「あァ?」
○○の言葉にマルコは不機嫌そうに低い声を出す。
「…………」
○○は眉をしかめる。
「……覚えて無いのかよい」
マルコは首の後ろを手のひらで押さえる。
「……barで飲んでた筈なのに、気付いたらここで寝てました」
○○は正直に言う。
調子よく話を合わせても、辻褄合わせは面倒そうだ。
「…………そうかよい」
マルコは少しつまらなそうな顔をする。
「食事、作ります」
○○は約束通り食事を作る事にする。
米をとぎ、煮干しで出汁を取る。
その間にひじきを戻し、人参、えのき、こんにゃく、ちくわを食べやすい大きさに切る。
メインは鰈があったので、どうせ人のお金だと奮発した。煮魚を作る。
ひじきを炒め、切った具材も入れる。水を入れ、さとう、酒、みり、醤油で適当に煮る。
煮汁を作り、魚を入れる。
炊飯器のスイッチを入れる。
煮干しを取りだし、大根をいれ煮る。味噌と大根の葉を入れれば味噌汁の完成。
煮魚とひじきの味を整える。
買ってきたこれまたひとつ300円もする豆腐を冷奴にする。
小ネギとおろししょうがを添える。
「出来ましたよ」
○○がダイニングテーブルにそれらを並べる。
「出来たかよい」
「あ、せっかく作ったんですから、タバコは持ち込まないでくださいね」
「よい」
○○の言葉にマルコは素直にタバコを灰皿に押し付けてテーブルにつく。
生活感の無い部屋に唯一テーブルの上に生きている証が彩られた。
「豪華だねい」
「鰈ですからね!」
○○はちょっと自慢気に言う。
「○○も食べるのかい?」
テーブルには2人分の食事。
「ええ。寂しいマルコさんが可哀想ですからね」
○○は鼻で笑う。
いきなり名前呼び捨てとは、女慣れした男は面倒だ。と思った。
「言うよい」
「ふふ。ここで頑張って家でも頑張るのが大変なんで。あ、お金なら払います」
○○は使われっぱなしが悔しくて、そう笑った。
「○○になら払い慣れてる」
ニヤリと笑うマルコに忘れていた事を思い出す。
「いただくよい」
「あぁぁ!!!」
「な、なんだい?!」
「……お金……barの。……もしかして」
○○は恐る恐るマルコを見る。
「奢りだよい」
マルコはニヤリと笑う。
「っ!!払います!」
「良いよい。別に俺の奢りでも契約はしてやるよい。女に払わせるのもおかしいだろい」
マルコは鰈に箸をつける。
「お!旨いねい。味付けが丁度良い」
マルコは少し驚く。
「そうですか?薄いと良く言われます」
「……男かよい」
「……男ですね」
○○はひじきを食べて「うん!美味しい」と頷いた。
「妬けるよい」
「はは、ご冗談を」
マルコもひじきを食べる。
(高い豆腐はやっぱり違うなぁ)
○○は楽しそうに豆腐を口に入れる。
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