04

○○は高層ビルに胃が痛くなった。

「か、帰ろうかな」

○○は深く深くため息をつく。

あれから何事も無い日々の生活が戻って来ていた。
○○は仕事に明け暮れ、一週間後に生理が来たときは心底ホッとした。

そして、自分の会社での地位を確立する為の第一歩として白髭と契約を結ぶために来たのだが。

「…………行くか」

もう、無理だと思いながら、その大きな会社へと入っていく。
因みにビルの名前はモーディビック。鯨がモチーフらしい。

受け付けには恐ろしいほどスタイルの良い女性が座っていた。

「あの、4時にマルコさんと言う方とアポイントメントを取っている□□と申します」

「少々お待ちください」

美しき受付嬢は電話を取り、何かしら話す。

「あちらのエレベータから38階の応接室までお上がりください」

「分かりました。ありがとうございます」

丁寧にお辞儀をしてからエレベータへ向かう。

38階を押すと、○○一人を乗せたエレベータは上へ上がっていく。

「……高い」

チーンと言う音と共に扉が開く。
窓からの景色はそれはもう、高いものだった。

とある部屋から男が出てくる。

「あ?4時からマルコにアポイントメントの人?」

「あ、はい」

気軽に話しかけてきた男に頷いた。

「こっちだ」

「はい!」

緊張して来たと思いながら○○は男に言われた通りに後に続く。

「そんなに緊張しなくて大丈夫だよ!うちの専務、公私混同しないから!取って食ったりしないよ!」

あはははと笑う。

「い、いえ」

○○は何と言って良いのか解らず、それだけ口にした。

「ほら!リラックス!」

男はにかりと笑う。

「あ、ありがとうございます」

○○は男が緊張を解そうとしてくれたのが解ってにっこりと微笑む。

「う!可愛い!あ!おれサッチ!宜しくね」

サッチは名刺を渡してきた。

「はっ!□□○○と申します」

○○も名刺を取り出す。

「○○ちゃんか、可愛い名前だね!どう?今夜飯でも」

サッチはにかりと笑う。

「か、考えておきます」

○○はにこりと笑った。

「そ?じゃあ、ここが応接室だから。またね!」

サッチは軽い足取りでまたエレベータへ向かう。

「わざわざ案内して、くれたんだ」

良い人だと○○はサッチを見送った。


ーーコンコン


○○は深呼吸してからノックをする。

「開いてるよい」

(ん?)

くぐもったドア越しの口調に不思議な物を感じながら○○は「失礼します」と扉を開ける。

「っ!!……ーー会社から来ました□□○○と申します」

一瞬男を見て驚いたが、何とか自己紹介をする。名刺を男に差し出す。

「白髭のマルコだ。宜しく頼むよい」

マルコは眠そうな顔でそう言い、名刺を差し出した。

(ま、まさか!あの時の人だ!)

2週間前、酔った勢いで一夜を共にした男がそこにいた。

「座ったらどうだよい」

「っはい!失礼します」

マルコが座る逆側の革張りのソファーに腰を掛ける。

「で?何の話かよい」

マルコは話を促す。

「はい。今回我が社の」

○○は自分の会社と白髭とがメリットのある契約を結ぼうと話す。
マルコは眠そうな顔だが、真剣にじっと○○の話を聞く。

いつもの○○であれば、その目に熱の籠った物を見付けられたが、それも今は分からなかった。

「と、言うのですが」

いかがでしょう?と○○はマルコを見る。

「吸っても?」

マルコは胸ポケットからタバコを取り出す。

「はい、もちろん」

○○は頷く。

マルコはローテーブルに置いてある置物だと思っていた物を手にする。
カチリとした音と共に火がともる。どうやらライターのようだ。

大きな灰皿を引き寄せ、フーッと紫煙を吐き出す。

「で?」

マルコは声を出す。

「と、申しますと?」

○○は恐る恐る聞く。

「これくらいの話で、これくらいのメリットなら、掃いて捨てるほど話は来る」

マルコはじっと○○を見ながらタバコを吹かす。

「……」

「他に何かあるかい?」

「…………例えば?」

○○はドキドキと頭を働かす。ここでにべもなく断られれば、白髭との契約はない。
よって、自分の会社での地位も無くなってしまう。
それは、避けたい。

「そうだねい。枕営業って知ってるかい?」

ニヤリとマルコが笑う。

「…………そう言う冗談は好きではありません」

○○は思いきり顔をしかめる。

「解ってるよい」

マルコはハハハと笑った。

「そうだねい。料理は得意かい?」

マルコは楽しそうに声を出す。

「え?はい。毎朝お弁当を作るくらいには」

○○は不思議そうにマルコを見る。

「じゃあ、毎晩俺の部屋に食事を作りに来るってのはどうだい?一週間続いたら契約してやるよい」

「…………はい?」

訳の分からない提案に○○は目が点になる。

「やるのかい?やらないのかよい?」

マルコは実に楽しそうに笑う。

「それが出来たら契約をして戴けると?」

「あァ、男に二言はねェよい」

「……宜しくお願いします」

○○は頭を下げた。






「おや、○○ちゃん、終わったの?」

「あ」

「俺は帰るよい。○○」

「あ、はい。失礼します」

「え?!どう言うこと?!」

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