君にささやくアイコトバ
「……」
ーーパサッ
「……」
ーーパサッ
「……」
ーーパサッ
「あぁぁぁ!!!」
「なんだよい」
突然騒ぐ○○にマルコは新聞を置いて声をかける。
ある平日の朝。
○○の様子がおかしいのは昨日の晩からだった。
「だっかっら!今日は大切なプレゼンがあるんですって!社長まで参加の会議でプレゼンしなくちゃいけないんですよ!もー!緊張し過ぎておかしくなりそう……」
○○は一気に捲し立てると今度は落ち込んだように資料に突っ伏した。
昨晩から部屋の中を落ち着かない様子でうろうろしている○○。ソファーで寛ぐマルコとの会話はこれで何度目になるか分からない会話だった。
「お前さんは確か世界で4本の指に入る男の誘いを堂々と断ってるよねい?」
マルコは呆れながら置いておいた新聞を広げて捲る。
「あれだって、会う前は心臓がおかしくなりそうでした!初めて白ひげ本社に行った時だって……」
○○は頭の中がぐちゃぐちゃとなった。
心臓が重く、手には汗をかき、冷たくなる。
「始まれば良いんです。始まっちゃえば覚悟が出来るんです!でも、こう、行くまでが……。あ、お腹痛い……」
○○はお腹を押さえるようにうずくまる。
「……おいおい、大丈夫かよい?」
マルコは心配半分、呆れ半分で○○を見る。
「マルコさんは緊張とかしないんですか?」
「あ?」
「いつも余裕そうな顔して何でも出来るじゃないですか……」
○○は床にうずくまったままじとっとマルコを見上げた。
「…………そうでもないよい」
マルコは煙草を深く吹かした。
「そうですか?そうは見えないです」
むーっとマルコを睨み付ける。
「じゃあ、どんな時に緊張するんですか?」
○○の言葉にマルコはおもむろに新聞を置いて立ち上がった。
「マルコさん?」
○○が不思議そうにしているとマルコは○○に視線を合わせるようにしゃがんだ。
「結婚して欲しい」
マルコは真剣な目でそう言うとポケットから小さな箱を取り出した。
○○は驚きに目を見開いたままマルコの様子をただ目で追っていた。
マルコは箱を開け、中からダイアの付いた指輪を取り出し、○○の左手の薬指にはめた。
「これだけ用意していてずっと渡せずにいたよい。俺はいつも肝心な所で尻込みしちまう」
マルコは○○の手を包み込むように握った。
「こんな俺で良かったら、一生一緒にいてくれるかい?」
マルコはじっと真剣な眼差しのまま○○を見つめた。
「いやー!□□くん!今日のプレゼン最高だったよ!社長も乗り気だ!」
「あ、ありがとう、ございます」
プレゼン中も、上司に褒められてる間も○○は驚くほど普通だった。
それよりも自分の左手の薬指にハマる指輪とマルコへの返事をしないまま家を出てきてしまった方が気掛かりだった。
「っ!ロビーン!ハンコックー!た、助けてぇ!!!」
○○は美女2人に泣き付いた。
「あら、泣く事?答えは決まってるんでしょ?不死鳥さんが可哀想だわ」
ロビンは冷静な言葉を発した。
「あァ!わらわはルフィだけのもの!」
ハンコックは相変わらずメロリンしていた。
「…………ただいま」
○○は少し遅く家に帰った。
「お帰り。遅いから心配したよい」
マルコがひょっこりと顔を出した。
「ご、ごめんなさい!」
「いや」
マルコは何事も無いように居間へと引っ込んだ。
「あ、あの!マルコさん!」
「なんだよい?」
マルコは○○を振り返る。
「その、……今日、プレゼン成功しました」
○○はポツリと声を出す。
「それは何よりだねい」
マルコは笑った。
「…………マルコさんのお陰です」
「そんな事ねェだろうよい。○○の実力だ」
「……っ!違う!!」
「○○?」
○○の大きな否定の言葉に驚いて振り返ると、そこには泣き顔の○○がいた。
「ま、マルコさんがいてくれるから!私にはマルコさんがいてくれたから!」
○○は大きく深呼吸をした。
「私もマルコさんと結婚したいです!」
○○は感極まってボロボロと涙を流した。
「っ!あァ」
マルコは素早く○○に駆け寄り抱き締めた。
「幸せにするよい」
マルコはギュッ強く自分の腕の中に○○を閉じ込めた。
「宜しくお願いします」
○○もマルコの腰へと腕を巻き付けた。
「まずは、○○の両親へ挨拶だねい」
「そしたらオヤジ様に挨拶?」
「あァ。オヤジの引退発表と俺の社長就任」
「え?」
「その時一緒に婚約発表だねい」
「いや、あの、え?マルコさんが社長?!」
「あァ」
「…………」
「嫌になったかい?」
「いや、…………いや、正直に戸惑います」
「…………止めるか?婚約」
「や、止めません!結婚して下さい!」
「そう、焦るなよい」
「わ、笑わないで下さい」
「支えてくれるか?俺を」
「……はい」
「宜しく頼むよい」
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