聖夜の時間
「あァ、そう言やその日は遅くなるよい」
「は?」
クリスマスも近付いてきた12月。
マルコはのんびりとソファーに深く腰掛け、煙草を吹かしながら新聞をめくった。
○○はマルコの隣に座り、熱心に料理の本を見ていた。
「そりゃ、新しい本かい?」
マルコはあまりにも熱心な○○をちらりと見て聞く。
「うん」
○○は本から顔をあげずに答える。
「ずいぶんと熱心だねい」
マルコはぺらりと新聞を捲る。
「うん。ほら!もうすぐクリスマスだし!」
○○はにこりとマルコを見上げる。
「クリスマス?……あ……」
マルコはカレンダーに目をやる。
「え?忘れてた?と言うか、この時期嫌でも目に入るよね?」
○○は驚いてマルコを見る。
「……仕事が忙しいからよい」
マルコは会社では重役だ。
師走は何かと忙しく、のんびりと出来るのは○○と家にいる僅な時間だけだ。
「さすが重役」
○○は少し呆れながら笑った。
「あァ、そう言やその日は遅くなるよい」
「は?」
マルコの言葉に○○は間抜けな顔をする。
「その日?」
「…………あァ」
「24日?」
「…………あァ」
「や、休みなのに?」
「休日だから昼間から飲むんだとよい」
「…………聞いてない」
「……元々クリスマスなんざ、家族でやるんだろうよい」
「…………そう、だね」
○○は沈んだ顔でパタンと本を閉じた。
そして、クリスマスイブ当日。
マルコは宣言通りまだ帰宅していない。
時刻は 23時53分。
「…………はぁ」
○○はリビングのソファーでクッションを抱えていた。
「帰って来ない」
○○はため息をついた。
かれこれ5時間はこの体制で待っている。
ーーガチャリ
ドアに鍵が差し込まれる音がして急いで玄関へ走る。
「お帰りなさい!」
開けられるドアを○○が勢いよく引く。
「お……おォ。ただいま」
マルコは驚いた顔をした後アルコールによる赤い顔で玄関へと入る。
「楽しかった?」
「あ……あァ」
てっきりふて腐れているとばかり思っていたマルコは○○の様子に驚きながら頷く。
「…………」
マルコはリビングについて愕然とした。
「どう?凄い?!せっかくのクリスマスだもんね!」
○○はにこりと笑ってキッチンへと歩く。
ダイニングテーブルには彩り豊かなクリスマスディナーが手付かずで並べられていた。
「……遅くなるって言ったよない」
マルコは慌てて声を出す。
「うん。でも、せっかくのクリスマスだもん。少しはそれっぽい事したいじゃない?」
○○は悪戯が成功した子供のように笑う。
その顔にマルコは少しだけホッとする。
「ほら、雰囲気出すために座って?」
○○に促され席につく。
「今、メインを持ってくるよ!」
言うと○○はキッチンへと入り、ローストチキンを持ってきた。
「……丸焼き」
マルコはポツリと呟いた。
「美味しそうでしょ?」
○○はにこりと笑うと勢いよくナイフをよく焼けた鳥の背中に突き立てた。
「………………あー。やっぱり怒ってるかよい」
マルコは突き立てられたナイフを見て首の裏に手を当てる。
「……だって!せっかく初めてのクリスマスなのに!」
ようやく表情を崩した○○にマルコはホッと息をついた。
「ほら」
「痛っ。何?」
マルコがポイとオレンジ色の紙袋を投げて寄越した。
「え?え?え?!」
○○はそのオレンジ色の紙袋をじっと見て、マルコを見てを何回か繰り返す。
「全く、俺にはどこが良いのか解らねェがよい」
マルコは良いながらネクタイを緩める。
「…………」
○○はギュッと紙袋を抱き締める。
「それじゃなかったかい?」
マルコが○○に近付く。
「…………」
「○○」
「…………うぅ」
○○は呻き声を上げる。
「嬉しく無い訳ない」
○○は小さく声を出す。
「そうかい」
「でも!!」
○○は目に涙を溜めてマルコを見上げる。
「一緒にいて欲しかったよ」
「あー」
マルコがギュッと○○を抱き締める。
「悪かったよい」
マルコが小さな声ではっきりと言う。
「ううん。先に決まってた事だから仕方ないよ。でも、寂しかったの!」
○○は照れ隠しに叫ぶように言う。
「ちょうどクリスマスだねい」
マルコが腕時計で時間を確かめる。
「そっか」
○○が覗き込むと12時を回っていた。
「メリークリスマス!マルコさん!」
○○はにこりと笑ってマルコを見上げる。
「メリークリスマス○○」
2人の影は静かに重なった。
「○○、バッグ使わないのかよい?」
「だ、だって、勿体なくて!」
「使わない方が勿体ないだろい」
「でも……」
「使って行くうちに味が出るんだろい」
「そ、そうだよね」
「お前みたいにね」
「っ!!!」
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