20
「今更真面目になるんですね」
○○はキッチンに立ち、夕飯を作りながらクスクスと思い出した様に笑った。
「…………仕方ないだろい。このまま、なぁなぁで付き合うのもおかしな話だろい」
マルコは新聞を読み、煙草をくわえながら口を開く。
「……それこそ今更な気がします」
○○はクスクスと笑う。
「……そうかい」
マルコは表情を崩さず頷く。
「私、まだ若いんですからね。女と言えども我慢そんなに出来ませんよ」
冗談半分に言うとさすがのマルコも顔を上げる。
「明日契約したら、改めて付き合いを申し出る。それまで待ってくれよい」
「はい。わかりました!」
マルコの言葉に○○は嬉しそうに頷いた。
「っと、出来ました!」
「よい」
マルコは新聞を畳んでテーブルへ向かう。
「今日のメニューはえびグラタンとサラダそれとコーンスープです」
○○はご飯をよそりながらメニューを伝える。
「旨そうだよい」
「頂きます」
「頂くよい」
2人は静かに同じテーブルを囲んで穏やかな食事の時間を楽しんだ。
「実は自分の好きな物作りました」
○○はえびグラタンをふーふーと冷ましながら言う。
「旨いねい。そうなのかよい?」
マルコは熱さをもろともせずに食べる。
「えぇ。グラタンと、コーンスープは誕生日に母が良く作ってくれたんです」
○○は懐かしそうに笑った。
「お袋の味ってやつかい?」
マルコは穏やかに笑う。
「はい!私の母は結構薄味派だったので、私も自然に」
○○はクスリと笑った。
「俺にとっては丁度良いよい」
「ありがとうございます」
○○はクスクスと嬉しそうに笑った。
「初めて好きな人に手料理作って、いきなりソースベタベタにされた時はショックでした」
○○は少し嫌そうに眉間にシワを寄せた。
「でも!マルコさんはこのままで美味しいと言ってくださって、凄く嬉しいです」
○○は本当に嬉しそうに笑った。
「そうかい」
マルコは穏やかに笑う。
「あ!マルコさんの母の味って?」
○○は自分ばかり話してるとマルコを見る。
「…………さぁ」
マルコは静かに首を振った。
「……」
「俺が物心付く前に他所に男作って出てったよい」
マルコは何でもない様に言う。
「父親もよく知らねェ。気が付いたら俺は札付きの悪になっててねい。愛情に飢えてたんだろうよい」
「マルコさん……」
「だから、オヤジと出会えた事が幸運だった。俺にはそれだけだった」
マルコはコーンスープをすする。
「女なんか、すぐに裏切る。簡単に子供を捨てて別の男の所へ行っちまう。だから、女なんて要らないと思ってたよい」
マルコはじっと○○を見据える。
「お前になら裏切られても後悔しねェよい」
マルコは楽しそうに笑った。
「…………マルコさん」
○○は胸の奥がギュッと締め付けられる様だ。
「まァ、逃がしゃしねェけどよい」
マルコはニヤリと笑った。
「…………マルコさん」
「なんだい?」
「私!料理のレパートリーも少ないですし、味もそんなに美味しくないかもしれないですけど!」
○○はがばりとマルコを見る。
「レパートリーも増やすし!料理の腕もあげます!だから、私の味を覚えていてください!」
「……」
「私がマルコさんの味になります!!」
「○○……」
○○の言葉にマルコは至極嬉しそうに笑った。
「そんなに可愛い事言うなよい。俺の努力が無駄になりそうだい」
マルコはにこにこと笑った。
「ところで、私どこで寝ます?」
「…………俺がこのソファーで」
「私が寝ます」
「させられないよい」
「マルコさん大きいから落ちそうですよね。あんまり寝相良くないし」
「…………よい」
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