12

久し振りに彼女に会ったのは、あれから10年だった。


よく行くbarに入ると、女店主のキャシーがカウンターにいる女の客と話していた。

その後ろ姿を見てドキリと胸が高鳴った。

見かけは平然と、内心は恐る恐る彼女の隣の席に腰かける。


やはり、彼女だ。


俺は高鳴る胸を押さえつつ、キャシーに気付かれない様に彼女達の話に聞き耳を立てながら酒を飲む。

どうやら、仕事で失敗をしたらしい彼女。


「そんな上司、殴っちゃえば良いのに」

「むひろ、殴らなかった私を褒めて欲しいでふ」

すでに彼女の呂律は回っていない。

「ふふ、そうね。なら、忘れちゃいなさい。またすぐチャンスなんて回ってくるわ」

「そう、ですかね?」


「貴方もそう思うでしょ?」

キャシーが急に話を振ってくる。
あァ、バレていた。

「そうだねい」

俺は動揺を悟られない様に頷いた。

彼女が振り返り、俺と目が合うとにこりと微笑んだ。



それが合図になったのだ。




俺は酔った彼女を送るとキャシーに言い残し、タクシーに乗せた。

言うのはもちろん俺のマンション。

彼女を支えて部屋に入る。

「名前は?」

「○○」

初めて知る彼女の名前。

彼女の潤んだ瞳に吸い込まれる様に彼女に口付ける。

彼女は甘い声を出しながら俺の口付けを受け入れていた。

それが酔いから来ていると解っていながら、俺は止まる事が出来なかった。






彼女の腹の上に己の欲を吐き出す。

彼女は規則正しい寝息を立てていた。

汚れを拭きながら幸せな感情に満たされた。

10年もかかったが、やっと手に入れた。

もう、手放す事などない。


しかし、朝目覚めると彼女の様子がおかしい。
どうや、全て覚えていないようだ。

俺は連絡先を書いた紙を受け取ろうとしない彼女のバッグに無理矢理押し込める。

連絡は来なかった。



しかし、赤髪との契約が成立しなかった今、白髭に来てもおかしくはない。

やはり、彼女から白髭へアポを取る電話がかかってきた。
俺に会うようにしむける。




彼女が欲しくて欲しくて。

厄介な俺の感情を受け取って欲しい。



女は裏切る。



それが真実。



だとしても




「マルコさんを信じて良いんでしょうか?」



彼女の言葉が突き刺さる。



あァ、彼女も裏切られた事があったのか




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