11
ただのどうしょうもない不良だった俺を息子の様にしかりつけたのが白髭であるエドワード・ニューゲートだった。
それまで嫌われ者だった俺を息子と呼び、愛情と言う物を教えてくれたのもそのオヤジだった。
しかし、家族愛が解っても、女の愛し方は知らなかった。
抱き方しか知らなかった。
恋はした。
でも、まァ寄ってくる女もどうしょうもないバカ女ばかりで、俺を裏切り去っていく。
今からちょうど10年位前。
白髭の会社で少しイイ気になってた時だ。
ちょっとした失敗をして荒れてた時。
「これ、落としましたよ」
周りにはたくさん人間がいたのに、皆俺がその定期入れを落としたのに気付いたのに、一番遠くにいた女が拾って声をかけた。
「あァ?」
きっと、一般人にはキツイ顔付きで振り返る。
そのせいで誰も拾わなかったのだが。
「これ!落としましたよ!」
もう一度彼女はそう言って笑った。
まだ高校生らしい彼女は幼さの残る顔でにこりと笑った。
膝より上のスカートがヒラヒラと風になびいていたのを覚えている。
「あ、あァ、悪かったよい」
定期入れを受け取ると嬉しそうに笑い、走り去っていた。
そんな彼女の背中を見えなくなるまで見送った。
あァ、こんな年の離れた相手に一目惚れとは、まだまだ若いねい
それから馬鹿みたいに駅の近くで彼女が通りそうな時間帯にいた。
どうやら、その駅には予備校通いしていたらしい。
彼女は週2回、駅に来る。
その時間を見計らい、俺はそこにいた。
もちろん、声をかける事もせず、かけられる事すらない。
女子高生にとってはただのオッサンである俺だ。
話しかけても通報されかねない。
季節は過ぎ、彼女は大学生になった。
違う駅だが、会社から近い駅で、彼女を見る機会が増えた。
しかし、彼女に彼氏が出来るのも見た。
あの男が彼女を抱いているのかと思うだけで殺してしまいたくなる程のどす黒い感情が腹に溜まる。
彼女が大学4年の時に転機が訪れた。
彼女の大学で1コマだけ講師をしてくれと頼まれたのだ。
俺は嬉々として引き受けたが、彼女が俺の講義を取る事はなかった。
それでも彼女と同じ空間にいられるだけで胸が熱くなった。
ただのストーカー野郎だと気付いて笑った。
彼女が就職活動をしていた時に「もしかして!」と言う期待は見事に外れ、違う会社になった。
一人暮らしを始めたらしい彼女にはもう会わなくなった。
俺も電車など使わなくなった。
しかし、あの定期入れだけは未だに捨てられずにいる。
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