01

シエルはある小さな島の酒場で歌を歌っていた。
彼女の噂は緩やかに他の島々まで伝わった。

そんな彼女のファンだと名乗る者も出始めた頃、その男はやって来た。

南国風ファッションにピンク色の羽を纏った男、七武海の一人ドンキホーテ・ドフラミンゴがった。

彼は特に何かを話すわけではなく、シエルの歌に耳を傾けながらアルコール度数の強い酒を弧を描いた口に流し込んでいた。

七武海が出入りをする店と評判を呼び、恐いもの見たさの客も増えた。
初めは怯えていた人達も意外にも大人しく、金払いも良いドフラミンゴに慣れていった。


そんな中、質の悪い客が悪酔いをした。

「止めてください」

歌うシエルに突然抱き付いたのだ。

「いつも澄まして歌ってるだけで、つまんないだろ?!俺が相手してやるよ」

ニヤニヤと気持ちの悪い笑みとアルコールの臭う息はシエルに不快感を与えた。

「やめっ!!」

シエルが全力で男を押そうとすると、

「うわ?!なんだ?!」

男は自分から離れた。
だが、戸惑う男にシエルは訝しげにその様子を見た。

「うわ!うわー!!!!」

男は叫びながらドンっ!と壁に自分から激突した。

「きゃー!!!」

店の中が騒然とした。
男は意識が朦朧とするほど壁に激突し続ける。
顔は歪み、鼻からは血が流れ出した。

シエルや店の中にいた者達が男のその奇行に怯えた。

「フッフッフッ!」

男の低い笑い声に店の中がシーンと静まり返る。

「おいたが過ぎるぜ?酒は気持ち良く呑むもんだ」

低い笑い声の正体はドフラミンゴであった。
ドフラミンゴは右手を掲げ、指を動かすと男は再び壁に激突を始めた。

「あ、あの」

ドシン、ドシンと機械的に続くその音にシエルは怯えながらもドフラミンゴに声をかけた。

「何だ?」

ドフラミンゴは指を止め、シエルに顔を向ける。
口許は相変わらず笑みを浮かべているが、サングラスのせいで本当の表情は分からない。

「……あ、助けて頂いてありがとう、ございました」

シエルは怯えながらも頭を下げた。

「も、もう大丈夫ですので、その」

シエルがしどろもどろに言葉を重ねた。

「何だ?」

ドフラミンゴは指を再び動かす。

「っ!も、もう止めてください!!」

ドシンと店に響く音に恐怖を感じてシエルは叫んだ。

「フッフッフッ!俺に指図するのか?」

「っ!!そ、そんな」

ドフラミンゴは右手を引っ込めると男は糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

ドフラミンゴは長い足を動かしてシエルのすぐそばまでやって来た。

「お前の勇気に免じて」

ニヤリと笑いながらドフラミンゴは怯えるシエルの耳元でそう声を出す。

「っ!!!」

背中がぞわりと恐怖で汗をかく。
しかし、それと同時に体が熱を持つのをシエルは感じた。

ドフラミンゴはそのまま金を置くと店をゆっくりと出て行った。

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