04

あの時、勇気さえあれば…………


「っ!!!」

アーヤは思わず踵を返した。

部屋に入るが既に明かりは消えていた。
ほんのり光る方へ足を進める。すると、喫煙所でマルコが煙草をふかしていた。


アーヤは深呼吸をする。

しかし、一歩が踏み出せないでいた。


「また」

マルコが突然声を出す。

「“また”そうしているつもりかよい」

マルコは灰皿に煙草を押し付けると立ち上がる。

「……え?」

アーヤは驚いてマルコを見る。

「お前だろい?ずっと俺を見てたろ」

マルコは一歩近付く。

「っ!!し、知っていたんですか?」

アーヤは驚きと恥ずかしさで頭が熱くなる。

「好奇の視線の中でひとつだけ好意の視線があったからな。それと、諦めの視線」

マルコはまた一歩近付く。

「……」

自分の気持ちを言い当てられ、その場から逃げたくなった。

「また、諦めるのかい?」

マルコはアーヤから2メートルほど離れた所で歩みを止めた。

「…………」

アーヤは喉がからからとした。

「……」

マルコは黙り込んだ。

「……あの時」

「ん?」

マルコは先を促した。

「卒業式の時、“卒業おめでとうございます”って、それだけを言いたかった……」

アーヤはポツリと声を出す。

「でも、言う勇気がなくて……。卒業した後に、もう会えないって思ったら、後悔しかなくて……」

アーヤはぐっと手を握った。

「マルコさん、卒業おめでとうございます」

アーヤはそう言うと頭を下げた。

「そして、私の仕事を認めて下さってありがとうございました!」

アーヤは、頭を下げたまま声を出した。

「ったく、勇気が出たのはそれだけかよい」

「え?」

「いや」

マルコの呟きはアーヤの耳には届かなかった。

「なら、今度は仕事なしでな」

マルコはそう言うとアーヤに小さな紙を手渡した。

「え?」

「“またな”」

マルコはそう言いながら手を振った。

マルコの背中を見送った後で見た手渡された紙はマルコの名刺だった。裏には手書きで携帯の番号が書いてあった。

「っ!!はい!また!」

アーヤは嬉しそうに頷いた。









目で追う、耳で聞く










「で?何で電話一本に1ヶ月かかるんだよい!!」

「ご、ごめんなさい!そ、その……ゆ、勇気が……それに、いつかけて良いか……」

「俺に気なんか使うなよい!」

「っ!で、でも……」

「わかったか?」

「は、はいぃぃ!!」

(ま、マルコさんの声怖いよー)

(これじゃあ、いつまで経っても進まねェよい)

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