01

確か「俺に惚れろ」とか「努力する」とか言ったのは誰だったかしら……。



「だっはっはっ!これ、馬鹿だな!」

隣で大笑いしさながらテレビを見るのは私の夫シャンクスさん。
私は王子様と結婚したかったのに……。

結局は変わらない無精髭、下品な大笑い、だらしのない服装。

…………やっぱり、王子様じゃないわ










「え?動物園?」

あかりは洗濯物を畳む手を止めてシャンクスを見上げた。

「おう!行くぞ!」

「行かないか?」ではなく、「行くぞ!」と言う決定的な物言いにあかりは呆れながらシャンクスを見た。

「では、準備をします。夕飯の下ごしらえをしてー」

「良いから!戸締まりして着替え持って行くぞ!」

シャンクスは急かす様に言う。

「?着替え?」

あかりは不思議そうにする。

「ぞうに水かけられるかもしれねェだろ!ほら!早く準備!!」

時刻はすでに午後3時を過ぎていた。

「……すぐにします」

旦那様に逆らうような教育を受けていないあかりは洗濯物を素早く畳むとそれを片付けながら着替えを用意した。

「よし!行くぞ!」

シャンクスは小さな旅行鞄を奪い取るとそのまま家を後にした。








車を走らせる事数時間。辺りはすっかり夕暮れになった。

(こんな時間に動物園だなんて……。動物起きてるのかしら)

あかりはシャンクスの傍若無人な態度に驚きながら意外に車の多い駐車場を見回した。

「車多いですね」

あかりはポツリと呟きながら車を降りた。

「あ?あァそうだな」

シャンクスは頷くと入場口へ向かう。

「な、何か本当に人が多い。もう閉園時間じゃないんですか?」

人の列に並ぶシャンクスに不思議そうに聞いた。

「ん?あァこれな」

「?ナイトZOOチケット?」

シャンクスが差し出してきたチケットを2枚と1枚のチラシを読んだ。

「そう。楽しそうだろ?」

「っ!はい!」

あかりは素直に頷いた。

「良かった」

シャンクスの笑顔にトクン胸が鳴る。

(いや、いくら旦那様でも王子様とかけ離れた人だからね。ないない)

あかりは胸が鳴るのを呆れながら否定した。










「うわぁ……」

薄暗くライトアップされた園内。
眠る動物や夜行性の動物は昼間の動物園では見られない様な動きを見せていた。

「夜の動物園も雰囲気があるんですね!」

あかりは楽しそうに園内を見回した。

「だろ?」

シャンクスは得意気に笑った。

「でも、動物達大丈夫かな?疲れないのかしら?」

あかりは少し心配そうに檻に目をむける。

「まァ、7時から9時までの2時間だし、明日は休園日みたいだな。園側も気を使ってるだろ」

シャンクスはパンフレットを見ながら答える。

「そうですか。なら安心ですね」

あかりは頷いた。









「結構歩きましたね」

一通り広い園内を見回って、あかりは言った。
昼間は暑かったが、この時間になるとさすがに肌寒かった。

「そうだな。何か飲み物でも買うか。温かい物にしような」

少し離れた所の店を見ながらシャンクスは声を出した。

「なら、私が」

「いいよ。俺が行くから待ってな」

シャンクスはあかりをその場に残すと店の方へと歩き出した。

あかりは近くのベンチに歩み寄った。

「……スニーカーにすれば良かった。暗いから何度か転けそうになっちゃった」

ベンチに座ると足元を見た。

「疲れてたけど楽しい」

あかりは店の方へと視線を合わせた。

結婚して2ヵ月が経ち、ようやくシャンクスと言う男に慣れてきた。
下品ではあるが、人間的には面白く、興味深い男だった。

「でもなー、王子様じゃないのよねー」

あかりは子供の時からの夢を捨てられずにいた。

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