03

「ただいま」

あれから数日後、ようやく激務から解放されてベックマンが家へと帰って来た。

「お帰りなさい」

一足先に帰っていた恵美がそれを出迎える。

「今日は泊まらないのか?」

ベックマンがタバコを灰皿へと押し付けながら聞いた。

「うん。飲むって言ってたけど、早く帰って来ると思ってたの」

恵美はベックマンから鞄を受け取り、所定の場所へと置く。

「あァ、さすがに疲れたからな」

ベックマンは上着を置くと、椅子に深くもたれ掛かった。

「お疲れ様です」

「……お前もな」

恵美の言葉にベックマンは優しく微笑むと彼女を引き寄せ、その腕の中に閉じ込めた。

「…………?甘い」

いつもより甘く、香ばしい匂いがふわっと漂う。

「っ!!……あの」

「どうした?」

恵美がベックマンからゆっくりと離れ、キッチンへと向かう。

「これ…………」

もじもじと言葉に出しそうな態度で恵美はそれをベックマンの前に置く。

「ん?卵焼きか?」

ベックマンは不格好で、色の濃い卵焼きを見る。珍しく思考が働いていないようだ。

「わ、私が作りました。良かったら食べてみて下さい」

恵美は火照る頬を隠すように片手で頬を押さえた。

「…………」

ベックマンは驚いて恵美から卵焼きへと視線を動かした。

何秒か固まった後、ベックマンは箸に手を伸ばした。

「…………」

恵美も無言のままベックマンの行動を固唾を飲んで見守る。

ベックマンは切られていなかった卵焼きを箸で器用に一口分に切ると、躊躇する事なく口に入れた。

ゆっくりと咀嚼すると口の中に甘さが広がる。

「甘い」

ベックマンは一言呟いた。

「っ、疲れた体には甘い物が一番だと幸子が……」

恵美は説明口調で声を出した。

もぐもぐと次から次へと卵焼きを口に放り込むベックマン。

「習ったのか」

「は、はい。私も副社長に何かしてあげたくて」

「旨い」

「へ?」

恵美の言葉を切るようにベックマンが短く褒める。

「旨いよ。ありがとう」

ベックマンは最後の卵焼きを口の中へ納めてから恵美の方を見た。

「っ!良かった!」

恵美は嬉しそうに笑うとベックマンの首に腕を巻き付かせる様に抱き締めた。

「料理を作るのって疲れる」

恵美はベックマンに甘えるように笑った。

「慣れないからだろうな」

ベックマンも恵美を抱き締めた。

「そっか、慣れれば楽しくなるかしら?」

恵美は首を傾げた。

「そうだな」

ベックマンが愛しそうに笑うと2人の影は引かれ合うように重なった。













「…………で?また卵焼きなのか?」

「はい!今日は挽き肉を入れて見ました」

「……一度火を入れると良い。生焼けだ」

「そうですか?難しいわ」

「……レンジに入れれば問題ないだろう」

「そうします」





「…………挽き肉に甘い卵焼きはどうなんだ?」

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