02
「いらっしゃい!」
連絡を貰っていた幸子はご機嫌で恵美を受け入れた。
「ワタクシ、ベン・恵美が社長夫人をお守りに馳せ参上いたしました」
恵美が真剣な顔で頭を下げた。
「あはは!何か、それ懐かしい!」
恵美は嬉しそうに笑った。
「そうでしょ?」
幸子も楽しそうに笑った。
「疲れたでしょ?先にお風呂入って!そしたら夕飯作るから」
「分かった」
幸子の言葉に恵美は頷きながら部屋へと入る。
「気持ち良かったー」
恵美がホカホカとさせて風呂から上がる。
「ギャー!!!ふぎゃー!!!」
泣き声がした後、幸子が赤ちゃんを抱いて出てきた。
「ごめん!ちょっとおっぱいあげちゃうね」
「うん。ごゆっくりー」
恵美が見ていると、幸子はリビングのソファーに座った。
「あっ!ごめん!お鍋の火消してくれる?」
「はーい」
慌てた幸子の声に恵美が答えてキッチンへと入った。
確か男の子だったよなーと思いながら恵美は鍋の火を止めた。
(今日はパスタか)
キッチンにはレシピ本と開かれたページの材料が並べてあるのに気付いた。
(これなら私にも作れるかな)
恵美はそう考えると手を洗った。
「…………」
幸子はシャンクスそっくりな赤ちゃんを抱いたままキッチンを見て動きを止めた。
「ご、ごめんなさい……。出来ると思ったんだけど……」
恵美は本当に申し訳なさそうに項垂れた。
「…………」
幸子は今朝掃除したばかりの悲惨なキッチンを見渡した。
「ほ、本当にごめんなさい」
レンジ台には得たいの知れない物がこびりつき、鍋は黒く焦げていた。
流し台には半分以上の野菜が捨てられ、調味料は必要以上に減っていた。
「…………」
「あ、あの、幸子?」
恵美は今にも泣きそうな声を出す。
「っ!!あははは!!!」
幸子は突然笑い出した。
「ご、ごめん!あまりにも恵美が間抜けな顔するから!」
幸子は息を切らせながら笑った。
「え?」
恵美はキョトンとした。
「だって!完全無欠の恵美が相変わらずの料理苦手!」
幸子は嬉しそうに笑った。
「……レシピもあるし出来ると思ったんだけど」
恵美はショボンと項垂れた。
「ふふ、やった事ないからだよ。味音痴って訳じゃないんだから、私が教えてあげるから頑張ってみる?」
「で、でも」
恵美は素っぴんの顔を情けなく歪ませた。
「大丈夫!それにベックマンさんにも食べさせたいでしょ?恵美ベタな事好きだし」
幸子はクスクスと笑った。
「…………うん」
恵美は顔をあげた。
「お願いします!師匠!」
「師匠って!ふふ」
幸子は嬉しそうに頷いた。
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