その後の時間8

初恋は中学生の時だった。

「あぁ、これが恋なんだ」と思ったのはそれが初めてで、その人を見るだけで心臓がギュッてなって。
その人の笑顔を見る事になると本当に死にそうな程心臓がばくばくと鳴り出した。

見ているだけで幸せで、告白なんてしなくて良いと思ってた。

自分に自信もないし、これ以上近くにいたら心臓が爆発しちゃいそうに思ったから。



でも、やったぱりちゃんと告白しておけば良かったと思う事もあった。

それは、彼が私の親友と話している時に見てしまったのだ。

彼が親友を見る姿。
それは私が彼を見る姿そのものだったのだ。

まさに恋する眼差し。

親友は小さくてふわふわして、可愛くて、頭も良くて、運動は少し苦手で……。
それはそれは自慢の親友なのだ。

私はその初恋を諦めた。






高校時代は漫画やゲームが好きになった。

気の合う仲間と1日を過ごすのが楽しくて仕方がなかった。

お洒落にももちろん興味を持った。
お母さんと買い物に行って少し可愛いTシャツやスカートを買っては気分が上がった。

休日はそれを着て皆で遊びに行くのも楽しかった。

皆との待ち合わせに行く途中。

「ねぇねぇ!そこの君」

変なナンパに捕まった。
背は大きく、歳は上だった。

「あの、急いでるから」

私は少し怖く思いながらその手を振り払った。

「何だよ、物欲しそうな格好してるから声かけてやったのに、ブス」

そう言って乱暴な言葉を投げ掛けられ、男は去って行った。

私は怖くてそこから動けなかった。




それから、服装はシンプルと言うか、地味な格好をする様になった。
男受けのする服装とは真逆のジーパンにシャツ。眼鏡と言う出で立ちが出来上がった。

いつか、好きな人が出来たらその人に褒めて貰える様に。

それ以外の男に興味を持たれない様に。







大学生になってからも変わらずそんな日々が続いた。

それでも良い友達に巡り会え、楽しい大学生活を送っていた。

そんなある日。



「え?合コン?」

私はきょとんとその子を振り返る。
確かにいつもより気合いの入った格好をしていた。

「そうなの!一人男側が増えて!!人助けだと思って!ね?」

お願い!と言う彼女はとても可愛らしかった。

「でも、私……」

「会場の居酒屋、めちゃくちゃ美味しい釜飯があるんだって!」

「………………仕方ないなぁ」

「ありがとう!!」

こう言う笑顔が似合う子が羨ましく感じた。

服装はいつもと一緒。ただの人数合わせ。
それでも、新しい出会いは大切だし、何事も経験だと参加を決めたのだ。




「うわ!カッコイイ!!」

友達もロックオン!とばかりに男性陣を見詰めていた。

名前は忘れたが黒髪にそばかすの子とその兄弟と話す金髪の子の事だった。


「 ○○ちゃんは、あー、いつもそう言うボーイッシュなのを?」

一人の人がそう聞いてきた。

「□□さんはいつもあーよ」

友達ではない女の子の一人が猫なで声で男に擦り寄る。友達以外の女の子もクスクスと笑う。

(そっか、私は引き立て役なのね)

私は少し嫌な気分になった。

「俺は良いと思うぜ」

金髪の子は笑って言った。何故か黒髪のそばかすの子も不機嫌そうな顔をしてる。
はっきり言って怖い。

「でもさー!せっかくなら可愛い格好すれば良いじゃん!スカートとか」

最初に言った人がそう言葉を続けた。

女達もクスクスと笑う。

「私は好きでもない男の前で綺麗でいようとは思わないの。好きな男の前だけ綺麗であれば良い」

その場の雰囲気を壊さぬようになるべく笑顔でそう静かに言った。

「そ、そっか!」

その人は「しまった!」みたいな顔をしていた。

それっきり私は興味がなくなってしまった。
楽しみにしていた釜飯もあまり美味しく感じなかった。











「あ!○○!」

「へ?エース?」

本屋で突然声をかけられて、振り返るとエースが立っていた。

今日は仕事だから休みでも会えないと言っていたはずだ。
だから、今日私はジーパンにTシャツと言う地味な格好をしていた。

それが急に恥ずかしくなる。

「ど、どうしたの?エース。仕事は?」

私は持っていた雑誌で何と無く胸の辺りを隠した。

「ん?今日はすぐそこで仕事でさ。漫画買いに来た」

エースはにかりと笑った。

「そ、そうなんだ。こんな所で会えるなんて思わなかったよ」

私は何とか笑顔で言う。

「…………あんま嬉しくなさそうだな」

エースは拗ねた様に声を出す。

何て可愛い顔するのよ、エース。

「そんな事ないよ!……ただ」

「何だよ」

「せっかくエースに会えるならもうちょっとお洒落したかったなって」

言いながら何と無く照れてしまい頭を下げた。顔に熱が集まるのを感じる。

「○○はその格好でも十分可愛いぞ!」

「え?」

エースを見上げるとエースの顔も赤かった。

「エース」

「まぁ、俺の前だけでお洒落してるってのも解ったしな!俺としては嬉しい」

にかりとエースが笑った。

「ふふ、エース以外の前でお洒落しても仕方か無いもんね」

エースは私と出会った合コンを覚えているらしい。
私は殆ど覚えてないのに。

「おう!!」

エースは嬉しそうに微笑んでくれた。



あぁ、本当に私はこの人の事が好きだなぁ。



改めてこの人に綺麗だと思われれば良いと強く思った。









「エースの野郎、俺達の事忘れてやがるな」

「サッチ、振られたばっかだからっていじけるなよい」

「うるせェ!!あいつは俺の所に帰って来るんだよ!」

「どうだかよい」

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