31
あれから数週間。
すっかり頬の腫れも傷も無くなった○○はやはり楽しい毎日を過ごしていた。
「エース!見て!かに!」
○○が砂浜を歩く。
「こんな季節にな」
エースはかにを見下ろした。
2人の手は指を絡めしっかりと握られていた。
「ふふ、何だか楽しいね」
○○は実に楽しそうにエースの隣を歩く。
「俺は○○と一緒にいるのが楽しい」
エースがにかりと笑った。
「ありがとう」
○○は少し照れながら笑った。
「傷、やっと消えたな」
エースは○○の頬に手を添えて呟いた。
それに合わせて○○もエースに向かい合う。
「うん!もう、大丈夫」
エースは心配屋だなぁと○○は笑った。
「女の顔に傷付ける奴なんてろくな奴じゃねーよな」
エースは昔の事と重ね合わせながらぽつりと呟いた。
「…………大丈夫だよ」
「ん?」
○○は真面目な顔でエースを見上げる。
「私にはエースがいてくれるから大丈夫だよ」
真面目な顔のまま、頬が染まっていく。
「…………」
「なんちゃって」
無言のエースに○○は苦笑する。
するりと繋いだ手を離し、○○は波打ち際まで行く。
「あの時さ、本当に怖かったんだけど、何だか現実味に欠けて」
○○は目の前に広がる海を眺める。
「それに、エースが来てくれたら、ホッとした自分がいたの」
「…………」
「あはは、すっかりエース君に依存してしまいました」
○○は情けなさそうに笑った。
「ごめんね。私が間抜けだからエースに迷惑かけて」
○○はくるりとエースに向いた。
「そんな事」
「あるよ」
○○はエースと距離を置いたまま見つめる。
「傷が治ってからにしようって決めてた。ごめんなさい」
○○は深く頭を下げた。
「私がいなかったらエースが傷付かなかったのに」
「傷なんて作ってねーよ」
「体のじゃないよ。心のだよ」
○○が一度頭を上げる。
「あいつは元々俺狙いだったんだよ。遅かれ早かれあいつの事はぶちのめしてた」
エースがニヤリと笑った。
「……でも」
「この先さ、俺と付き合ってたらまたこんな事あるかもしんねーな」
「っ!!」
エースの言葉に○○がぴくりと反応する。
「俺さ、良くわかんねーけど、何か絡まれるんだよな」
「……うん」
「だから、俺の彼女ってと、また拐われるかもな」
「………………うん」
「……怖いか?」
「……………………」
無言で頭だけ下げる。
「そうか」
エースは少し寂しそうに頷く。
「でもね、エースがいてくれたら……大丈夫……だよ?」
「○○……」
「わ、私、エースと別れた方が良いのかもしれないけど!怖いけど!やっぱりエースの側にいたいよ!エースが好きだよ!エースの隣に」
「○○」
エースは軟らか笑うと、○○を抱き締める。
「じゃあさ、彼女止めるか?」
「っ!!!……」
エースの言葉に○○の顔が辛そうに歪む。
「その方が、良い?」
「あァ」
「…………エースは……わ、私が彼女じゃない方が……良い?」
「あァ」
エースは一度緩めて泣くのを堪える○○の顔を覗き込む。
「俺のお嫁さんになってくれ」
「え………………」
エースの言葉に○○何を言われたのか飲み込めない顔をする。
「もうさ、心配なんだよ。俺の目が届かない所にいるの。なら、結婚して一緒に暮らそう」
「……」
「これから危険な事なんて俺ださせねェよ。俺が○○を守っていく」
「……」
「○○が嫌がっても一生離してやる気にはならねェ」
「……」
「だから、俺と結婚しようぜ」
エースはにかりと太陽の笑顔を見せた。
「…………いや、私達まだ学生」
「学生結婚か良いな」
「仕事もしてないし……ほら、就職もしなきゃだし」
「俺、もう決まってる」
「え?どこ?」
「白髭」
「大会社!!!」
○○は目を白黒させる。
確かバイト先がそんな事言ってたけど。
「なァ、大切にするよ。だから、俺と」
「…………ぷふ!」
「なっ!○○。俺は真剣にだな!」
思わずエースの真剣さに笑ってしまった。
「ごめんね、エース!」
「な、何がだよ」
エースはどきりとする。
「好きだよ!エース。大好き!」
「○○!じゃあ」
「でも、やっぱり結婚は大学出てから」
○○はクスクスと笑う。
「……」
「まだ研究にも集中したいし、お友達と遊びたいもん!結婚したら、私絶対エースだけいれば良くなっちゃう」
「良いじゃねーか」
「良くない!」
エースの嬉しそうないじけた顔にぴしゃりと言い放つ。
「エース。私達これから何になるのかな?」
「は?」
「結婚の約束をしたのよね?」
「あァ、そうだな」
「婚約者?」
「そう……なるのか?わかんねーけど」
エースの悩む顔をじっと見る。
「じゃあ、卒業まで宜しくね、婚約者さん?」
○○はにこりと笑った。
「あァ、早く卒業してェ!!!」
エースは○○を抱き締めながら叫んだ。
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