28
○○を乗せた車は漁港に着いた。
そこは、もうずいぶん昔に使われなくなった寂れた場所。
人も入らない様な場所だった。
「……」
先ほど殴られた頬が痛む。
「こっちよ」
女は○○の両手を前で縛り、その縄を持つ。
まるで犬の散歩の様だ。
建物に入り驚いた。
人相の悪い男達がたくさんいた。
「……」
○○は恐怖で息を飲む。
「ふふふ、いらっしゃい」
女は嬉しそうにその中を歩く。
そして、一番奥に立つ。
「ご苦労様」
髭の男が声を出す。
「ふふ。ここに来るわよ、エース」
女は嬉しそうに髭の男に駆け寄る。
「そうか。このお嬢さんを追いかけて、な?」
ニヤリと髭の男が笑った。
「っ!」
ぞわりと○○の背中に嫌な汗が流れる。
「大好きな彼女を他の男に取られたらどんな顔をするかな」
にたりと髭の男が○○の顎を持ち、上に向けさせる。
「そしたら私が慰めるわ」
クスクスと女が笑う。
良く見ると、女の目は虚ろだ。
「はは、そうか。それは困るな」
髭の男は笑った。
「エースが何をしたの?」
○○が髭の男に声をかける。
「……何も?強いて言えば奴の父親、そして、白髭かな」
憎しみの籠る目を髭の男が宿す。
「……なら、エースには関係ない」
「ある!!!奴は存在その物が罪なんだよ」
今まで穏やかだった髭の男が怒鳴る様に声を荒げた。
「そ、そんな勝手な!!!」
「うるさい!!!」
「んあぁっ!!」
髭の男に思いきり殴られ床に倒された。
「親が犯罪者なら息子もまた危うい!」
髭の男が声を出す。すでにこの男も正気を失ってる様に見える。
「さて、取り合えずこのお嬢さんは好きにして良い。あいつの顔が楽しみだ」
髭の男が合図をすると、近くにいた男がニヤニヤと笑いながら近付いてくる。
「っ!」
○○は縛られた手を動かし、何とか後ろに下がろうとする。
「ふふふ、ダーメ。エースは私の物だもの」
背中に女がぶつかり、○○の頭は恐怖でおかしくなりそうだ。
「ほら、こっち来い!!」
「いやっ!!!」
男達が○○を仰向けに床に押さえ付ける。
ーードドドドドドド
激しいエンジン音と共にエースの乗るバイクのが漁港に入ってくる。
「来たか」
「え、エース……」
○○は男達に押さえ付けられ動けないながらも、声を出す。
バイクに乗ったまま、スピードを落とさずに群がる男達をなぎ倒していく。
ギュインっと言う音と共にバイクを停める。
「テメェら、○○に何してンだよ」
エースの低い声が響く。
「あァ、餌が入って来た」
ニヤリと髭の男が笑った。
「罪深き罪人の子にして、憎き白髭の子」
髭の男が声を出す。
「あァ?!だから何だ」
エースはぴくりと反応する。
「俺が見付けた宝をお前の親父が盗ったのだ。あの盗人め」
髭の男が忌々し気に吐き捨てる。
「盗人?」
反応したのは○○。
「……」
それにエースが目を細めた。
「そうだ。昔、俺はそいつの親父と手を組んだ。世界中色んな所へ行き、最高の宝を探した」
髭の男がうっとりと話す。
「…………親父は考古学者だった。まァ、探求心が強すぎて許可のない場所まで堂々と入って行ったらしい」
「あぁ、それで犯罪者……」
エースの感情の無い声に○○は頷いた。
「それだけじゃない!あいつは俺が見付けた宝を横取りしやがった!」
髭の男が怒鳴る。
「…………それって、出し抜こうとして、出し抜かれただけじゃ……」
「うるさい!!!」
「っ!!」
○○の言葉が図星だったらしく、男は激昂する。
「エースのお父さんには会った事無いけど、エースのお父さんならきっと素敵な人だと思う!」
○○は負けずに叫んだ。
「それを負い目に感じるエースもエースよ!」
○○はエースを見る。
「○○」
エースは驚いた声を出す。
「それだけじゃない!白髭は!」
髭の男が怒鳴る。
「あァ、思い出したよい」
静かに入って来たのはマルコ。
「貴様!マルコ!!」
髭の男がマルコを怒鳴る。
「こいつ、昔オヤジに取り入ろうとして失敗した間抜けだよい」
マルコは首の後ろに手のひらを乗せ、眠そうな目で見た。
「っ!!」
こちらも図星だったらしく、顔を真っ赤にする。
「間抜けな男なんだな、お前」
感情の無い声でエースは髭の男を見た。
「オヤジー!マルコから伝言!今日直帰だってさー」
「グラララ!あの馬鹿息子は専務の意味解ってんのか?」
「全く、暇じゃないのにね!」
「ハルタ、そう言ってやるな。可愛い末弟の一大事だ」
「エースは今度は何をやらかしたのさ?」
「イゾウ!さぁな。まァ、大丈夫だろ」
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