03

「全く……」

泣き疲れて眠ってしまったエムの髪を優しく撫でながらビクトールは自分に呆れる。

ビクトールはいつも城に残して行くエムの事を気にしていた。
城にはエムと年頃の近い男が沢山いる。
エムが自分より他の男に惚れた時自分は冷静にいられるか、それが疑問だった。

これまで大切な愛しい女を幾人か亡くしてきたビクトールだった。大切な人を失う事が「仕方がない」と諦める事に慣れていた。

はずだったのだが、エムが他の男と仲良く話をしているだけで実は腸が煮えくり返りそうになるほど嫉妬していた。

「俺もまだまだ若いって証拠かね?」

ビクトールは自分自身に苦笑いをした。

「……ん……ビクトール……」

少し手が離れただけでビクトールの温もりを探すエム。

「お前を離せるなんて、とっくの昔に出来なくなってるのかも知れないな」

自分自身に笑いながらエムを抱き締める。すると彼女はにこりと笑って再び規則正しい寝息を立て始めた。

「そっちがその気なら二度と離してやらねぇぜ」

ビクトールは眠るエムの額に口付けた。









「あれ?フリックどうしたの?」

「…………転んだ」

「そ、そのわりには私の事睨んでない?」

「……………………そんな事ないぜ」

「何よ、その間は」

「お前はビクトールの事を信じてろ」

「は?なんで急にビクトール?」

「俺の命に関わる」

「え?」

「じゃあな」

「…………一体、なんだったのかしら?」

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