年下の彼4
脱け殻の様になってしまった○○を引き連れ、エースは市役所で婚姻届を貰い、ガープに挨拶。
続いて○○の両親にも挨拶。
そのまま市役所に戻り、婚姻届は受理された。
ガープは豪快に笑い、○○の両親は(晩婚の娘に若い夫が出来たと)大感動で喜んだ。
「今度はオヤジにも会ってくれな!」
エースはにかりと楽しそうに笑った。
○○は脱け殻の様にぐったりとしたまま翌日を迎え、署へと出勤した。
「おはようございます」
「聞いたわよー!イケメン年下と結婚したんだって?!」
内勤のお姉さまや交通のお姉さま達に囲まれ、○○は逃げるようにパトカーへと乗り込んだ。
「…………はぁ」
「大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。ありがとう」
ため息をつきながら若い下っ端巡査を引き連れてパトロールをした。
地域のパトカーに乗る○○は泊まりの任務だ。
今日も3時間ほど仮眠を取り、明けの日に備える。
「あ、メール」
未読メールを開くとそこにはエースの名前が。
「『泊まりの仕事なのか?気を付けてな!』……えーっと、そうです。泊まりです。ありがとうございます。お休みなさいっと」
○○は文章を口に出しながらメールに返信した。
ーーブブブ
「うわ!速い!『おう!お休み!』か」
○○は胸が暖かくなるのを感じながら仮眠の為に目を閉じた。
次の日は特に事件もなく半日が終わった。
「お疲れ様!今日は無事に帰れそうね」
○○と相方はパトカーを所定の場所に戻すと署に入った。
「…………帰れないかも」
○○はため息を深くついた。
「っ!!○○ちゃん!結婚したってどう言う事?!」
とてつもなくひょろ長い男が鼻息荒く○○に近付いた。
「お久し振りです、クザン本部長」
○○は舌打ちをしそうなのを押し殺し、にこりと笑った。
「○○ちゃんは俺の嫁になるんじゃなかったの?」
良い年の行った男が泣きそうな顔とは本当に……。
「もう、なれませんねー。結婚しましたから」
○○は面倒臭そうに笑った。
「っ!!本当だったんだ!毎日毎時ここの署と言うか○○ちゃんの勤務状況とか個人情報とか見てたら名字変わってるし!結婚とか書いてあるし!!」
クザンは興奮しながら捲し立てた。
「だったら、ちゃんと口説いて下さいよ」
○○は呆れながら口を開く。
「いつもしてた」
「だらけ過ぎててただのセクハラにしか見えません!」
クザンにきっぱりと言い切る○○。
クザンの地位はかなり上なので本来なら会わない2人だが、たまたま○○が警察学校にいるときに特別教官としてクザンが来た。
そこでクザンはどうやら○○に惚れたようだ。
「では、私はこれで」
○○が立ち去ろうとするのをクザンが止めた。
「昼飯に付き合って」
クザンは○○に真剣に言う。
「……奢りですか?」
「良いよ」
「…………着替えてきます」
「待ってる」
クザンの金でたくさん食べてやろうと○○はため息をついた。
やっとの事で家にたどり着いた時には既に夕暮れだった。
「……クザンめ……。無下にも扱えないし、上司とは厄介な生き物……」
○○は眠たい体を何とか動かして自分のマンションにたどり着いた。
「お帰り……」
そこには物凄く不機嫌なエースがドアの前で体育座りをしていた。
「た、ただいま」
○○が返事をするとエースは立ち上がった。
「何してた?」
エースは睨むように○○を見る。
「え?」
「仕事は昼には終わったはずだろ?今まで何してた?」
エースは怒りに近い表情で声を出す。
「……警察官は殆ど定時になんて上がれないの!」
○○は精神的に参った気持ちで苛立たし気に声を出した。
鍵を開けると部屋へと入る。
「…………男と飯食うのが仕事なのか?」
エースは玄関に入り、鍵をかけながら○○を見た。
「……」
何か言い返そうとしてエースを見たら不安気な瞳がそこにあった。
「本部の部長さんなんだけど、学校時代からお世話になってて。結婚祝いに奢ってくれただけ」
○○は落ち着きを取り戻して笑顔で言った。
やはりエースと言う人間はまだ子供の様だ。
「本当か?不倫じゃないのか?」
エースはまだ疑わし気に○○を見た。
「確かにセクハラ紛いな事は言われたけど、基本的には良い人だし。ガープさんも尊敬してるからエース君の事もわかってくれたよ」
○○が諭すように優しく声を出した。
「…………疑って悪かった」
エースはショボンと項垂れた。
「ふふ、良いよ」
○○はエースを部屋へと招き入れた。
「ご飯食べる?」
○○は帰りがけに買ってきた物を冷蔵庫に入れながらエースに聞く。
「食う」
エースは素直に頷いた。