04
「□□、これコピー30部。冊子にしとけ」
「は、はい!」
あれから2週間、○○はイゾウの元で雑用としてこき使われていた。
「○○ちゃん珈琲入れてー!」
「あ、はい!」
「俺玄米茶!」
「俺ほうじ茶!」
「紅茶!」
「梅昆布茶!」
「…………は、はひ!!」
○○は人数も多い部所で目の回るような忙しさだった。
中でも人使いの荒い人間はイゾウだった。
「□□、これ歪んでる。やり直せ」
「は、はい!すみません!!」
「15時の会議には使う。早くしろ」
「か、かしこまりました!!」
イゾウは冊子を突き返した。
○○はコピー室で慎重に用紙を入れるとコピーを始める。
終わった物を素早く冊子にする。
「で、出来ました!!」
○○から受け取った冊子を確認した。
「よし、第3会議室に並べとけ」
「はい!」
「ついでに第8支部長のナミュールにこれ届けろ」
イゾウが茶封筒を差し出す。
「な、なみゅ?」
「言われたその場で覚えろ。ナミュールだ」
○○が慌てて聞き返すと苛立たし気にイゾウが言った。
「は、はい!ナミュール部長に届けるであります!」
○○は可笑しな言葉遣いをしながら第16支部を離れた。
「イゾウ部長容赦ないよな」
こっそり部下達が話す。
「確かにな」
こそこそと他の部下も声を出す。
「見込みのある奴を鍛えるのは当たり前ェだろ?」
こそこそと話す部下の後ろにいつのまにかイゾウが立っていた。
美しい妖艶な顔には絶対零度の微笑みが張り付いていた。
「「ひぃ!!!」」
「他人の事はいいからとっととテメェラも仕事しろ!」
イゾウが思いきり2人の頭を叩いた。
「ふぁ……今日もかなり疲れた……」
○○はヘトヘトになりながらエレベータのボタンを押した。
「おう!○○ちゃん!お疲れ!」
「あぁ、サッチ部長……お疲れ様です」
就業時間に底抜けに明るいサッチは今の○○には辛かった。
「なに?なに?本当にお疲れだねェ!あいつドSだからな」
サッチはニヤニヤと笑った。
「……まさしく、ですね」
○○はがっくりと肩を落とした。
「あははは!でも、頑張ってるみてェじゃねェか!話は聞いてるよ」
ーーポーン
2人はエレベータに乗り込むと○○は一階を、サッチは地下を押した。
「地下には何があるんですか?」
「なになに?俺に興味ある?」
○○の疑問にサッチはニヤニヤと質問を被せる。
「…………いえ、特に」
○○は面倒臭そうに首を振った。
「あははは!つれねェな!つかさ、上司に向かってその態度はないってんだよ!」
サッチは楽しそうに笑う。
「はぁ、すみません」
○○は気のない返事を返す。それでも心なしかエレベーターに乗る前より楽しそうだ。
「地下は駐車場があるんだよ。まァ、幹部以外あんま使ってないけどなァ」
サッチは地下のボタンを指差しながら言った。
「……あれですよね、サッチ部長はきっとスポーツカーっぽいです。もしくはクラシックカー」
○○はサッチの指先を見ながら口を開いた。
「良く解ったな!あ!もしかして○○ちゃん俺の事?!」
「あ、着きました。お疲れ様でした!」
○○は一階に着き、エレベータから降りて疲れてはいるがクスクスと笑いながら頭を下げた。
「はいはい、皆サッチ兄さんに冷たい!お疲れー!」
サッチはハンカチを噛みながらも笑顔で手を振った。
エレベータのドアが閉じ、下へと向かう。
「……はァ」
サッチは大きく息を吐き出した。
「頑張っちまってまァ、可愛い事」
サッチは緩む口許を大きな手で隠しながら笑った。
「…………でもな」
ーーポーン
エレベータのドアが開き、サッチは車の鍵を取り出す。
鍵についているキーホルダーは素子がサッチにプレゼントしたものだった。
「ほんっとに、俺ってどうしょもねェな」
サッチは大きくため息をつくとチャリンとキーホルダーを鳴らして車へと近付いた。
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