25
「15分経ったな」
元彼氏が立ち上がった。
「あいつもお前と手が切れて喜んでるかもな」
元彼氏は○○を見下ろした。
「…………そうだね」
○○は仕方ないと立ち上がる。
「分かってたのになぁ。何で泣くんだろう」
○○はハンカチを取り出して目に当てた。
「そいつの父親になってやるから」
元彼氏が○○の手を握る。
「ううん」
○○は首を左右に振り、やんわりとその手を離した。
「一人で育てるのか?大変だろ!子供にも良くない!」
「いや、そうじゃなくて」
元彼氏の興奮した声に○○は慌てた。
「お前みたいな奴は俺以外に貰い手なんて無いだろ!」
元彼氏の怒鳴り声に○○の胸がひんやりと冷たくなった。
「……なにそれ」
「はーい!サッチさん登場!!」
○○の声を遮る様に軽いサッチの声が公園に響いた。
「サッチさん!って、なにそれ?」
○○が驚いた様な、嬉しいような気持ちでサッチの方を振り返ると、サッチは男達を肩に担いでいた。
「ん?これ?ほら、お友達だよ」
サッチは元彼氏に男達を投げ付けた。
「お、お前ら」
「ごめんよー」
男達は痛いと呻いていた。
「でさー、元カレ君は彼女としての○○ちゃんじゃなくて、家政婦さんか奴隷が欲しいんでしょ?」
サッチは陽気な声を出すが目は鋭く元彼氏を見た。
「な、何の事」
「とぼけんなよ。○○ちゃん追い出しておいて、そいつらに襲わせた所を助けてやって、負い目感じさせて追い込んで、逆らえなくしようとしたんだろ?ちゃーんとこいつらが口割ったよ。携帯で録音済み!」
サッチはそう言うと携帯の再生ボタンを押した。
流れてくる会話は耳を疑う物であった。
「当てが外れて俺の所に来てさ。まぁ、良いやと思ってたけど、白ひげの正社員として働き出したの知って、金になるって思ったんだろ?」
サッチはゆっくりと元彼氏に近付いた。
「っ!そりゃそうだよ!こんな女の利用価値なんてそんぐらいだろ?!」
元彼氏は○○を指差した。
「……」
○○は驚いて言葉も出ずに固まった。
「なら、二度と○○ちゃんに近寄るな!」
サッチは叫びながら○○の姿を隠すように立った。
「……はっ」
元彼氏は短く笑った。
「お前だってそうだろ。手軽に抱ける女が欲しいだけだろ?」
「あァ?!」
元彼の言葉にサッチは柄の悪い声を出す。
「お前、前の彼女の事今でも好きなんだってな。でも浮気してその彼女に出てかれたんだろ?ざまぁねぇな!」
元彼氏は侮蔑を込めてサッチを見る。
「……だったらなんだよ。あァ!そうさ!確かに俺は女に出て行かれた馬鹿な男だよ。だが、それがどうした!今は関係ないだろ」
サッチは睨むように元彼氏を見た。
「はは、関係ないってよ?どうする、○○?こいつと結婚してもお前結局苦労するだろうな?」
元彼氏はサッチの後ろにいる○○に目線を合わせる。
「○○ちゃんの腹ん中には俺の子がいるんだよ。俺はこいつを幸せにする義務がある」
サッチの言葉に○○は胸を突かれた。
「サッチ、さん」
今まで黙ってい○○が声を出した。
「ん?」
サッチは顔だけを○○に向けた。
「わ、私妊娠して、ないって」
「は?」
「ごめんなさい。何かの拍子で遅れる事もあるって、せ、生理ももうすぐ来るって」
○○は泣きそうになるのを堪えながら声を出す。
「ごめんなさい。もう、私、サッチさんに結婚してもらう、理由が………………ない」
○○は頭を深く下げた。
「…………」
サッチは黙って○○に体ごと向けた。
「あははははは!良い気味だな!お前だけ幸せになろうとするからだろ、なぁ!○○!!!」
元彼氏は馬鹿笑いをしていた。
「うるせェ、黙れ」
「っ!」
サッチの初めて聞く地を這う様な声に○○はびくりと怯え、元彼氏は黙る。
「……ケッ!じゃあな!」
元彼氏は何とか正気を取り戻すと、男達を蹴り起こしその場を離れた。
「……」
「……」
2人だけ残された公園は重たい沈黙が流れた。
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