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「紹介状は?」

「持った!」

「保険証」

「持った!」

「財布、携帯」

「うん、持った。大丈夫」

「後なんだ?タオル?ティッシュ」

「タオル?ハンカチなら持ったよ」

「そんなもんか?」

サッチは出掛ける○○に忘れ物は無いかチェックしていた。

「うん、もう大丈夫だよ」

○○は少し呆れながら声を出した。

「そっか。なら、送る」


ーーピルルルル


「はい。なんだ、マルコか。あ?…………は?いや、でも俺これから○○ちゃんをだな。…………おい!……解った、わかりましたー!」

サッチは乱暴に通話を切った。

「社長?」

○○はサッチを覗き込む様に聞いた。

「あァ。すぐに来いとさ」

「頑張ってね、サッチ部長!」

○○はクスクスと笑いながらサッチの腕をぽんっと叩いた。

「悪いな。送ってやれなくて」

サッチは○○の頬に手を添える。

「ううん。大丈夫!午後から会社に行くから!」

「いや、その前に電話してよ」

サッチは少し呆れながら声を出した。

「そっか!わかった」

○○は頷いた。




外まで一緒に行き、サッチが駐車場で車に乗り込みエンジンをかけた。

「じゃあな、ちゃんと電話しろよ?」

サッチは○○に念を押した。

「はいはい。わかりました!」

○○はシッシッとサッチに早く行けと手を振った。
サッチは何か言いたげに口を開いたが、そのまま「じゃあな」と窓を閉めると車を発進させた。

「さて、行くか」

○○はサッチの車が姿を消すまで見送った。












「…………」

○○は無言で産婦人科から出てきた。

来た道をとぼとぼと歩く。

「うーん。恥ずかしいな。どうしよう」

○○はこれからどうするかを思案しながらマンションへの道を歩く。とにかく午後からは仕事だ。帰って着替えなくてはならない。

大通りから一本入り、狭い道を歩く。

後ろから車が来たので、避けようと一歩引く。

しかし、車が○○の隣で止まる。

「なに?」

呟いた時に車の助手席側のドアが開き、○○は中から伸びてきた手に腕を掴まれ、大声を叫ぶ間もなく車に乗せられた。










「遅い」

サッチはデスクの上に乗せた携帯電話を睨んでいた。

「終わったら電話かけろって言ってんだよ」

サッチはイライラと携帯電話を指で弾いた。

「サッチ部長ー!これ」

「後だ!後!」

「いやいや!ちゃんと仕事してくださいよ!」

4支部はトップが働かずに仕事が滞っていた。

「サッチ部長ー!会議の資料これで良いっすかァ?!」

「あァ?!んなの後だっつってるだろ?!」

「そんな訳にも行かないっすよ!!見てください!!」

引き下がらない部下が無理矢理サッチに出来た資料を握らせた。

「チッ!」

サッチは不機嫌に舌打ちをしてから資料を確認し出した。

「サッチ部長これも!」

「サッチ部長これもお願いします!!」

「サッチ部長!」

「ゲ!多い!」

次々に押し寄せる部下達にサッチは面倒臭そうにした。







ーーピルルルル


ようやく一段落した所で、携帯が鳴り出した。

「もしもし!遅い!」

サッチは○○の名前を確認してから出た。

『す、すみません』

焦った、と言うより少し怯えた○○の声が電話から聞こえた。

「で?どうだった?」

サッチは○○のそんな声に深呼吸してから聞いた。

『そ、それが、ちょっと!』

○○の声が急に遠くなる。

「おいおい、どうした?何が」

サッチは慌てて携帯に耳を押し付けた。

『……あんた、○○が産婦人科から出てきたの知ってるのか?』

急に男の声に変わり、サッチの眉間にシワが寄る。

「誰だ?」

『○○の彼氏だよ。テメェが腹の親とか?ふざけてんのか?』

電話の向こうの男は少し興奮気味に話す。

「ふざけてねェけど?」

サッチは椅子に深く腰を下ろし、足を組んだ。

『……まァ、良い。○○の彼氏も旦那も一人で良い。お前が○○の彼氏だか旦那だかになりてェなら、ーー公園に来い。今すぐ話し合おう。近くだから車飛ばせば10分かからず来れるだろ?15分して来なかったらそれを放棄したって事になるからな。じゃあな』


ーープープープー


鼓膜を揺さぶる機械音。

「っとに!頭来た!!!」

サッチは叫びながら立ち上がった。

「え?サッチ部長どこへ?!」

部下達がわらわらとサッチに群がる。

「ちょっとぶっ殺して来る!」

サッチが部下達を睨むと「ひぃぃ!!!」と悲鳴が上がった。

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