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「ここで良いわ!ありがとう」

素子が声を出すとサッチはハザードランプをつけて車を停車させた。

「風邪引くなよ」

サッチは小降りになった空を見てから素子に声をかけた。

「ふふ、うん!○○さんも、気を付けて!」

素子はバイバイと手を振ると高級マンションへ入って行った。
サッチはそれを見届けるとルームミラー越しに○○を見た。

「悪かったな」

「いいえ」

○○は車道側の外を見たまま首を左右に振った。

「前来るか?」

サッチは先程まで素子が座っていた助手席を叩いた。

「ううん」

○○は静かに首を振った。

「……気にしてるのか?」

サッチはばつが悪そうに声を出す。

「…………ごめん、車酔いみたい。気持ち悪くて」

○○はサッチの言葉を無視してシートにもたれ掛かった。

「あ!悪ィ!!すぐに家帰るからな!」

サッチは慌てて車を発進させた。










着いた時、まだ少し雨が降っていた。

「待て待て、ほら」

サッチは自分の上着を○○に頭から被せる。

「良いよ。大丈夫」

「そう言うなっての!」

サッチがにかりと大きな手を○○の頭に乗せ笑った。

「っ……」

そんな顔見せられたら、また好きになってしまう。

○○は心臓を捕まれた様に感じた。








「何か軽く作るぞ」

サッチは上着をかけながら言う。

「……ごめんなさい。気持ち悪くて食欲無いや。シャワー入って寝ます」

○○は困った様に眉をひそめた。

「そうか。無理はしなくて良いからな!」

サッチはにかりと笑うと車のキーをいつもの場所にかけた。








(もし、私がキーホルダーを買ったらサッチさんは使ってくれるのかな?)

○○は熱いシャワーを浴びながら考えていた。

「あはは、そんなの無理に決まってるじゃん」

○○は声を出した。

そう、この部屋には所々にサッチ以外の面影があった。

例えば花の無い花瓶。
使っていない置時計。
サッチと色違いの使われてない食器。

「……それでも、私は」



サッチさんと……。



○○はシャワーを止めて外に出た。








自分の宛がわれた部屋の布団に入ってもなかなか眠れずにいた。
頭はぐるぐると回り、気持ち悪い。
サッチと素子の顔が目をつぶると見えてしまう。

「はぁ」

○○はため息をもらした。

がらりと引き戸が開いた。光が差し込まないのは、すでに他の部屋も電気を消したかららしい。

「サッチさん?」

「なんだ、起きてたのか?」

サッチは笑いながら○○の眠る布団に潜り込んで来た。

「眠れないのか?」

サッチは後ろから○○を抱き抱える様に寝転んだ。

「ちょっと、明日の心配を」

○○は困った様に笑った。
さすがに素直には自分の感情を言えなかった。

「悪いな、一緒に行ってやれなくて」

サッチは○○の髪を優しく撫でた。

「いえ。気にしないでください。ちゃんと紹介状も貰ってますし!」

○○はくすりと笑った。

「……明日」

「はい?」

「明日さ、仕事終わってからになっちまうけど、指輪買いに行こうな」

サッチはギュッと○○を抱き締めた。

「っ!!は、はい!」

○○は嬉しそうに頷いた。
さっきまでの胸のもやもやはいつしか無くなっていた。

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