21
「あ!おい!重い物持つな!」
「あ!なにしてんだ!走るな!」
「おい!そんな煙草臭い奴に近寄るな!」
「コーラ飲むな!ジンジャーエールにしろ!」
○○はサッチの過保護ぶりに嫌気が差していた。
「サッチ、ウザイ」
「ウザイってなんだ!」
イゾウが呆れながら声を出とサッチはそれに噛みついた。
ここは16支部。サッチの4支部からは遠く離れた場所だ。
「仕事しろ。ここには来るな」
イゾウは○○を背に庇うように立つとサッチを手でシッシッと追い払った。
「酷い!お前が○○に半休やらねェから俺は心配で心配で!」
「□□」
「は、はい?」
突然話を振られ○○は驚きながら反応する。
「お前、明日半休だよな」
「そうです」
「おい、サッチ。テメェは後1日も待てねェのか?」
イゾウはサッチを睨み付ける。
「だってな!○○は!」
「サッチ部長!」
サッチが言おうとして○○は慌てて止めた。
ちゃんと産婦人科で受診するまで妊娠は秘密にしているのだ。
「くーっ!良いか!○○に負担かけるなよ!」
サッチはそう言い捨てると自分の部所へと帰って行った。
「お前も変な男に引っ掛かったな」
イゾウはため息混じりに○○を見る。
「ふふ、過保護ですけど、変じゃないですよ」
○○は嬉しそうに笑った。
「そうかい。なら、とっとと仕事しろ」
「は、はい!」
イゾウの冷笑に背筋を正し頷いた。
気持ち悪い中、何とか業務終了の時間になった。
「帰るぞ!」
サッチが迎えに来た。
「サッチ部長……」
○○は呆れた様にサッチを見た。しかし、その顔は心なしか嬉しそうであった。
「お熱いねェ。胸焼けしちまうよ」
イゾウが2人を見てキセルに手を伸ばす。
「そ、そんなんじゃ」
「けっ!羨ましい癖に!じゃあな!」
○○が慌てて否定しようとしたが、サッチはニヤリと笑った。
「お、お疲れ様でした!」
○○はイゾウと16支部の仲間に頭を下げると慌ててサッチの後を追いかけた。
「雨ですねぇ」
○○は信号待ちの車の中で呟いた。
しとしとと降り続ける雨は止む気配がない。
「……あいつ……」
サッチは○○の声を聞いていなかった。そして、外をじっと見た。
サッチの視線の先を追うと、そこには綺麗な女の人が傘もささずに颯爽と歩いていた。
「悪ィ○○ちゃん良いか?」
「え?あ、はい」
○○は何だろうと思いながらも頷いた。
「素子!!何やってんだ?」
サッチは車を路肩に停めると運転席の窓を開けて声を張り上げた。
綺麗な女の人がその声に振り返りにこりと笑った。
「あら、サッチ!今さ、車点検中で無くて、傘忘れちゃって」
素子は美しく笑った。
「副社長は何してんだ!」
サッチは怒りを露にしていた。
「あ、私後ろに行きます」
○○は車内で器用に後ろの座席に座った。
「悪ィ。ほら、乗れ!送る」
「ラッキー!ありがとうサッチ!」
素子は嬉しそうに笑うと後続車を気にしながら車の助手席に乗り込んだ。
「お前、傘くらいコンビニで買えよ」
サッチは呆れながらタオルを素子に投げる。
「ふふ、雨に濡れるのも気持ちが良いものよ?」
素子はくすりと妖艶に笑い、受け取ったタオルで綺麗な髪を拭いた。
「ったく」
サッチはため息をつきながら車を発進させた。
「ねぇ、サッチ」
「ん?」
「紹介してくれないの?」
素子は嬉しそうに○○に美しい顔を向けた。
「あァ……」
歯切れの悪いサッチに○○はピンと来た。
「□□○○です。サッチ部長にはお世話になっております」
○○はぺこりと営業用スマイルを出した。
「彼女?」
「あ」
「違いますよ」
素子の質問にサッチが答えるより先に○○は笑顔で答えた。
「なんだ、そうなの。私素子!昔白ひげにいたの!今は赤髪に転職したけどね」
素子はにこりと笑った。
「そう、なんですか」
○○はそれからは黙って2人の会話を聞いていた。
長年連れ合った夫婦のように話続けるこの素子と言う人が前にイゾウが言っていたサッチの元彼女だとすぐにわかった。
(なんだ。サッチさんの心は全然私に無いはずだ)
○○は泣きそうになるのを何とか堪えた。
「あれ?サッチ!まだこれつけてる」
素子は車のキーホルダーを見た。
「丁度良いのがないからな」
サッチの言葉は嘘だとすぐにわかった。
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