20
○○は言おう、言おうとするが、なかなか勇気が出なかった。
サッチを目の前にすると「拒絶されたらどうしよう?」と怖くて黙ってしまうのだ。
そんな日が3日続いた。
「今日は飲み会で遅くなるから先に寝てて」
サッチが出掛けに言っていた事を思い出す。
とぼとぼと一人歩く帰り道。
○○はお腹を擦った。
「私が悩んでる間にもこの子は育ってるんだよね」
まだ産婦人科にも受診できずにいた。
「よし!今日こそ!今日こそサッチさんに言おう!」
○○は銀行に寄ってからマンションに帰った。
「たっだいまー!」
サッチの陽気な声に○○は寝ていた体を起こした。
「あれ?○○ちゃん、どうしたの?」
サッチは驚きながら○○を見た。
「あの」
「ん?」
「……その、は、話が」
ーーピルルルル
「ごめん、ちょっと待ってね」
「はいはーい!サッチさんだよー」と軽い口調で喋るサッチを見た。
少し話すとサッチは電話を切って服に携帯をしまった。
「ごめんね。話ってなに?」
サッチはローテーブルを挟んで逆側の床に腰を下ろした。
「あの………………に、妊娠したかも」
「…………は?」
「だっ!だから!赤ちゃんが出来たかも知れないの!」
「……」
○○の言葉にサッチは一瞬フリーズした。
「……俺の?」
「……他に誰が」
「そ、そうだよな…………」
サッチは驚きながら自分を指差し、○○は少し不機嫌そうに言い、サッチは慌てて頷いた。
「こ、この前病院に行ったら、妊娠の可能性もあるみたいって」
○○は言いながら医者に貰った紹介状をローテーブルに載せた。
「……あー」
サッチは酔いが覚めたのか、言葉にならない声を出して頭をかいた。
「お、お金ならあるの!」
どんっ!と用意してあった百万円の束をローテーブルに置いた。この為に銀行へ寄ったのだ。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……確認するけど」
「は、はい」
重たい沈黙の後、サッチは口を開いた。
「○○ちゃんは産みたいの?」
サッチの言葉が○○の胸をえぐった。
「うん……。サッチさんには認知して欲しい」
○○は泣きそうになるのを何とか堪えて声を出す。
「はぁ」
「っ!」
サッチの大きなため息に○○の体はびくりとした。
「じゃあさ、結婚すっか?」
サッチの言葉に○○は驚いて顔を上げた。
「い、良いの?」
○○の口の中はカラカラだった。
「良いの?って」
サッチはケラケラと笑った。
「これは○○ちゃん一人の問題じゃねェ。ましてや俺一人の問題でもねェ。何より産まれて来る子に両親揃ってた方が良いに決まってるだろ?」
サッチはにかりと笑った。
「っ!ふ、ふぇーー!!」
「え?お、おい!泣くのかよ!」
我慢していた○○が泣き出し、サッチは優しく○○の側まで来るとよしよしと頭を撫でた。
「だ、だって!おろせって言われたらどうしようとか、ずっと、ずっと考えてて」
○○はえぐえぐとサッチに抱き付いた。
「いや、さすがにおろせとは言わないだろ」
サッチは安心させるように○○の頭を撫でる。
「うぅ、ありがとう」
○○は、ぐりぐりと自分の頭をサッチに押し付けた。
「うーん。まずはオヤジに挨拶して、マルコ達にも言わなきゃな」
サッチはこれからどうするかを頭の中で組み立てる。
「とにかく病院には早めに行くんだぞ」
サッチは○○に言う。
「うん。早めに午前休貰って行ってくるね」
○○は何度も頷いた。
[ 22/35 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]