13
「サッチ部長……」
色っぽい声を出しながら○○がサッチに抱き付く。
「なんだ?まだ足りないのか?」
サッチは男前な表情で○○の髪を優しく撫でた。
○○は顔をサッチの胸に押し当ててこくりと頷いた。
「まったく、俺の身が持たないぜ」
サッチはクスクスと笑いながら○○の体に指を滑らせた。
「ん……」
○○が甘い声を出す。
サッチはぐふぐふと笑いながら都合の良い夢から目を覚ました。
「…………?」
辺りを見回したが誰もおらず、サッチは一人客間の枕を抱えていた。
「あーれー?」
サッチはおかしいぞとキョロキョロする。さっきまで確かに○○を抱いていた。それはもう夢とは真反対で、サッチが飽きずに「もう一回」を連発していた。
散らばった服は外出着だった。面倒なので下着だけをはくと立ち上がる。
「……甘い」
立ち上がると何処からともなく香る甘い匂い。
「っ!!俺の城が!!」
サッチにとってはキッチンで女が料理するイコール爆発と言う恐ろしい方程式が出来上がっていたので、急いで引き戸を開けた。
ーースパンっ
気持ちの良い音と共に引き戸を開け、ドカドカと居間へ出てキッチンへ向かう。
「あ、おはようございます。キッチンお借りしてます」
○○が笑顔で振り返る。
「…………あ、あァ」
サッチは焦りながらキッチンの様子を見るが、かなり綺麗に使われていた。
「大丈夫です!甘い物には自信があるんです!って!服着て下さい!服!!」
そう言いながらフレンチトーストを焼き上げる○○。
「そ、そうね」
サッチはホッとため息をついた。
大丈夫そうな事を確認したサッチは一度自分の部屋に行き、ジャージを着込む。
「それより大丈夫?」
サッチはハッと気付く。自分が抱いてきた女達は大体次の日は立っていられないのだ。
「味には自信があるんですが……」
○○は不安そうにフレンチトーストを盛り付けた皿をサッチに見せた。
「いや、そうじゃなくてね」
サッチはどう言う事だと戸惑う。
昨晩の感触も○○の声も耳に残っており、夢ではないはずだ。
サッチは不安になりながら○○の首筋を注意深く見る。
髪の毛や襟で隠されているが、時々サッチの付けた痕が見えた。
(これは、もしや)
サッチは自分の眉間にシワが寄るのが解った。
「どう言うつもりだ?」
サッチが低い声で聞く。
「……今までのお礼のつもりだったんですが」
○○はフレンチトーストをダイニングテーブルに置いた。
「これに書いたんですが、部屋が決まりそうですから。フレンチトーストだけは友達にも『店出せるよ!』って言われて」
○○は照れ臭そうに頭をかいた。
「いや、だから!そうじゃなくて」
サッチは大きく息を吸った。
「出て行くなよ」
サッチが静かな声でハッキリと言った。
「……いえ、そう言う訳には……。いつまでもサッチ部長に頼るのも良くないですし。早く部屋決めて私物を取りに行きたいです。……棄てられてる可能性もありますけど」
○○は乾いた笑いで言う。
「ここに置けば良いだろ?俺の物が邪魔なら片付ける!だから」
サッチは焦ったように捲し立てた。
「…………さ、昨夜の事でしたら忘れて下さって良いですよ。部長かなりお酒臭かったですし」
○○はサッチから目を背けて言う。
「っ!!ふざけんな!受け入れるって言ったのは○○だろ?!」
サッチは怒鳴るように声を出した。
○○の体がびくりと震えた。
「…………」
「…………」
朝の部屋に居心地の悪い沈黙が流れた。
「……怒鳴って悪かった」
サッチは後悔をしながらぽつりと呟いた。
「……私」
「ん?」
「…………ここにいて良いんですか?」
○○は下を向いたまま呟いた。
「あ!ああ!もちろん!」
サッチは逃がすまいと力強く頷いた。
「…………私、もう少し、ここにいたい、です」
○○は途切れ途切れに声を出した。
「おう!いろよ!いれば良いから!」
サッチは何度も頭を縦に振った。
「そう、ですか。ありがとうございます」
○○はそれだけを言うとその場に崩れるように座り込んだ。
「ど、どうした?」
サッチは慌てて○○に合わせる様にしゃがみこむ。
「じ、実は……その……体が辛くて」
○○は顔を真っ赤にさせてもじもじと口を開いた。
「だ、だよな?ごめんな」
サッチは苦笑しながら○○を抱き抱えた。
「っ!こ、怖っ!」
○○は突然の出来事に驚き、必死にサッチにしがみついた。
「取り合えず寝てろ」
サッチは○○を客間の布団の上に寝かせた。
「あの」
「おう?なんだ?」
「フレンチトースト。食べて下さいね」
○○は照れたように笑った。
「おう!いただきます!」
サッチは嬉しそうに笑うと○○の頭を撫でた。
「いや、だから温かい内に……」
なかなか部屋を出て行かないサッチに○○はフレンチトーストを気にする。
「……わかったよ」
サッチは笑いながら部屋を出て行った。
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