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「ヘェそれでサッチの所に転がり込んだと?」

ステアリングを握るイゾウはさも楽しそうに笑った。
いつも握るキセルではなく、メンソール系の煙草が不思議だった。

「あ……はい。私が無理矢理居座ってる気がしますが」

○○は気まずそうに頷いた。

「あいつ、女好きだから気を付けろよ」

ニヤリと笑うイゾウは物知顔だ。

「……はぁ」

「その返事は食われても良いって事か?」

イゾウは笑いながら急カーブを回った。

「なっ!!っとと」

「でもあいつ面食いだぜ?」

イゾウはニヤリと笑う。

「え?」

○○は思わず聞き返す。

「あいつの元カノ滅茶苦茶美人だったからなァ」

クスクスと楽しそうに笑うとイゾウはブレーキをかけ、停車した。

「ほら、着いたぞ」

「…………あ、ありがとうございました」

○○はハッと顔を上げると車を降りた。

「まァ、頑張れよ」

イゾウは手を振ってその場を後にした。








「…………た、ただ今帰りました」

○○がチャイムを押すと怖々ドアを開いた。

「おっそーい!サッチ様特性茶碗蒸しが冷めるだろ!」

サッチは腕組みをして立ち塞がっていた。

「す、すみません!」

○○は頭を下げた。

「イゾウは?」

サッチはキョロキョロとドアの外を見る。

「それが、帰って行きました」

○○がそう告げた。
イゾウは○○を車から下ろすとそのまま帰っていったのだ。

「そっか。まァ、良いか」

サッチは先に部屋へと入る。

「あ!そうだ、そうだ『ご飯にするぅ?お風呂にするぅ?それともぉーあ・た・しぃ?!』」

サッチは見事に気持ち悪くくねくねと言った。

「…………チェンジで」

○○は呆れながら親指と人差し指を立ててクルクルと回した。

「あらぁー!○○ちゃんたら冷たぁーい!!」

サッチはケラケラ笑いながら居間に消えていった。

「……はぁ」

○○は呆れながらも心は楽しそうにしていた。







「っ!茶碗蒸し美味しい!!」

結局サッチに急かされ、手だけ洗って食卓についた。

「だろ?サッチ様特性だからな!」

サッチは自信満々に胸を張った。

「いやー、これだけ美味しい物作れたらお嫁さんに欲しいくらいです!」

○○は感動しながらパクついた。

「あらー!なら貰ってくれるのぉー?」

「やっぱりチェンジで」

気持ちの悪い物言いのサッチに笑顔で答える○○。

「冷てェー!」

サッチは気分を害している様子なく、寧ろ楽しそうに笑った。

「プリンなら得意なんですけどねぇ」

○○は銀杏をすくって口に入れた。

「甘い茶碗蒸しは嫌だな」

サッチは少し嫌そうな顔をした。

「いや、銀杏とか入れないですよ?」

○○は慌てて否定する。

「そりゃそうだ!」

サッチはケラケラと楽しそうに声をあげた。









「お風呂ありがとうございました」

○○はほかほかとしながら頭を下げた。

「おう。そう言えば連絡とか無いのか?」

サッチはさらりと聞いてきた。

「……えぇ。ありません」

○○は携帯電話を見つめた。

「あ!大丈夫ですよ!休みの日に不動産屋さん行きますから!安くて良い所が見つかれば良いですけど」

○○はにこりと付け加えた。

「それ、ちゃんと探す気あるのか?」

サッチはニヤニヤと笑った。

「『サッチ部長と離れたくなーい!』とか?」

「……凄く聞きたくないですけど、もしかして今の私の真似ですか?」

○○は嫌そうにサッチを見る。

「似てたろ?」

「まったく!」

笑うサッチに○○は怒っていた。

「すみません。今日も本当は会社に泊まってしまおうと思ったんですけど……」

○○はポツポツと口を開いた。

「かなァと思った。別に迷惑なら初めから「泊まるか?」なんて聞かねェよ」

サッチは笑いながら口を開いた。

「……すみません。哀れんで貰って良かったです。昨日一人だったら。……ううん。昨日あのままだったら、会社なんて出られないですし、もしかしたら……」

○○はグッと拳を握った。

「……まァ?サッチ兄さんを当てにして正解だったんじゃね?俺じゃなきゃあんなに早く駆け付けらんないし。イゾウだったら、……いや、白ひげの奴らなら皆助けたさ。同じ事をした」

サッチは○○を見た。

「俺達は同じオヤジの名を背負った家族だ。家族は大切にする!これ、当たり前な!」

サッチはにこりと笑った。

「サッチ部長……」

○○はうるりと涙腺が緩んだ。

「私、派遣辞めて、オヤジさんとサッチ部長と出会えた幸運に感謝してます!」

○○は泣きそうになりながらもにこりと笑った。

「……そうか。ほら、もう寝な。明日は休みだろ?」

サッチは客間を指差した。

「はい!スラムダンク読みます!」

○○はにこりと笑った。

「お休みなさい!」

「あァ。お休み」

○○は引き戸を閉めた。

「…………ふふ」

1日の終わりに誰かと挨拶をするのは気持ちが楽しくなると思った○○だった。

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