08

風呂を借りて(物凄く広かった)、客間と言う名の物置部屋へ案内された。

「あんまり干してないか臭うかも知れないけど、まァ使ってないしキレイだろ」

サッチは布団一式とスラムダンクとドラゴンボールを部屋に置いた。

「ありがとうございます。助かります」

○○はほかほかとする体のまま頭を下げた。
さすがにパジャマはなかったので、ティシャツに短パンと言うラフな格好だった。

「はいはい。トイレは風呂の隣だから。お休み」

言いながらペットボトルを渡すとサッチはドアを閉めた。

「……ふぅ」

○○は一息つくと布団の上に座り込んだ。

(何でこうなっちゃったんだろう)

○○はため息をつきながら携帯を充電させて貰う事にした。
数時間ぶりに電源を入れたが、誰からも連絡はなかった。

(……振られちゃったなぁ)

○○は忘れていた涙が溢れた。

「っく……ひっ」

上司を殴るのにはそれなりの覚悟があった。それでもクビになるのは胸が張り裂けそうだった。

今回は予告なしの彼氏からの罵声。訳のわからない男達に追いかけられ、○○の心は悲鳴を挙げていた。










とても良い香りで目が覚めた。

「……?…………あ」

見た事のない天井、そして部屋に昨晩の事をようやく思い出すと○○はのそのそと着替えだした。充電の終わった携帯を見ると午前7時08分。

「やば……」

「おはよう!!!」

「きゃぁぁぁ!!!」

スパンっ!と引き戸が開けられ、サッチがいつもの笑顔で立っていた。

「なーんだ、もう着替えたの?」

サッチはわざと口を尖らせ残念そうにした。

「……いや、いやいやいや!着替え最中だったらどうすんですか?!」

○○は羞恥心と驚きから物凄い鼓動をする心臓を押さえながら真っ赤な顔で叫んだ。

「あら、赤くなって可愛いねェ。ほら!飯出来たから食え!」

サッチはにかりと笑うと部屋を後にした。

「…………し、心臓がもたない!」

○○は髪の毛を手櫛で整え、使った部屋を少し片付けると居間に出た。





「珈琲と紅茶どっちが良い?」

朝からエプロン姿のサッチは眩しかった。髪の毛は隙のないリーゼントだった。

「えーっと、じゃあミルクティで」

「遠慮がねェな!!」

サッチはケラケラと笑うとミルクティの用意を始めた。

「冷めねェ内に食ってくれ!」

サッチに進められ、テーブルについた。
フォークを差し出されオムレツを口に入れた。

「っ!!美味しい!!」

思わずそう叫んでしまった。

「あはは!だろ?サッチ様特性のスペイン風オムレツは最高だろ?」

サッチは笑いながら○○を見た。





『さすがサッチ!天才だね!』

まだあどけなさの残る美しい笑顔で素子が笑った。






「俺も未練がましい男だねェ」

「ん?何か言いました?」

サッチの自傷気味の笑いに○○が不思議そうに聞いた。

「いーや、なんでも?」

サッチは笑いながらミルクティを渡した。

「ん!これも美味しい!!何ですか?使ってる葉の違いですか?」

○○は社交辞令ではなく本気で驚いた。

「んー?愛情の違いじゃね?」

サッチは楽しそうに手でハートマークを作った。

「……なるほど」

○○はフォークを口にくわえたまま唸った。


「ところで○○ちゃん」

「はい?」

「時間大丈夫?」

サッチがニヤニヤと壁掛け時計を指差す。
壁掛け時計の近くには使っていない可愛らしい花瓶があった。

「っ!!ヤバイです!!!」

○○はガタンと立ち上がる。

「イゾウ時間にはうるせェよ?」

サッチは意地悪く笑う。

「無理!無理です!行きます!」

○○は慌てて荷物をまとめる。

「はいはいっと、車出すよー」

サッチはカチャリと鍵をもてあそんだ。

「す、すみません!」

○○は凝縮しながら頭を下げた。

「良いから、良いから!んじゃ、行くよ」

サッチは機嫌良さそうに駐車場へ向かった。









「お、おはようございます!」

「おや、□□。重役出勤じゃねェか」

「い、イゾウ部長!!そ、そんな事」

「クビされたくなきゃ、俺より早くに来るんだな」

「っ!!は、はひ!!!」

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