07
○○は夢を見ていた。
マルコが優しく笑いかけて来た。
『マルコ!』
○○は思いきり抱き付いた。
マルコは難なくそれを受け止めた。
『ごめんなさい!私がちゃんとしてれば!マルコに疑われる事も嫌われる事もなかったのに!』
○○は泣きながら言う。
『マルコ、好き。本当は離れたくなんてなかった!貴方に好きな人が出来たとしても。すがり付いて醜くても良いから!離したくなかった!』
○○は泣きながら言うとマルコはそっと離れた。
『ま、待って!!マルコ!!』
○○の、言葉を聞かずにマルコは立ち去った。
「……」
○○はゆっくりと重い瞼を上げた。
どうやら病院らしい。
「?……っ!」
何故病院のベッドで寝ていたのかを思いだし身震いした。
「……ここは」
○○は辺りを見回したがどこの病院かは分からなかった。
「っ!痛ぁ……」
○○はベッドから出ようとして体を動かしたら、背中と右肩、頭に鈍痛を感じた。
「……どうしよう」
○○がおろおろとしていると病室のドアが開いた。
「おお!起きたかい?」
入ってきたのは医者の様だが、目付きが悪く、○○は怯えた。
後ろから着いてきたのはとてもセクシーな看護婦だ。
「は、はい」
○○は何とか頷いた。
「どうだ?痛い所あるか?」
医者が胡散臭い笑顔で近付いて来た。
「……身体中が」
「だははは!そうだろうな!凄い傷だしな!体は起こせるか?傷を見る」
医者は笑った。
動けない○○にセクシーな看護婦が手を貸した。
「あー……少し化膿してるな。あまり綺麗な物で殴られなかったんだなぁ」
医者はしみじみと○○の背中を見た。
「薬を塗って包帯を変えてくれ」
「はい」
医者の言葉にセクシーな看護婦が頷いた。
「じゃあな!いつまでもあんたの肌を見てたら殺される」
医者は笑いながら病室を後にした。
「ちょっとしみますよ」
セクシーな看護婦に背中を見られるのは気が引けた。
「ふふ、夜には来てくれるそうよ」
セクシーな声が○○の鼓膜を揺らした。
「誰が……」
○○は不思議そうに看護婦を見上げた。
「ふふ、助けてくれた人。何かあったらナースコールしてね」
看護婦は意味深に笑うと病室を、出て行った。
病院の食事は美味しく、量は多かったがぺろりと食べた。
何だか色々な事が有り過ぎて○○は疲れていた。
気付くと眠っていた様だ。
誰かに頭を撫でられる感覚で目が覚めた。
「ん……」
「起きたかよい」
暗がりで誰がいるのか分からなかった。だが、声ですぐにわかった。
「ご、ごめんなさい!あうっ!」
○○は急いで起き上がり頭を下げた。しかし、体全身の痛みのせいで前に倒れ込んだ。
「無理するよい」
室内の電気はついていなく、輪郭しかわからないが、マルコの声は優しかった。
「マルコさんが助けてくれたんですね」
○○は小さく呟いた。
「あァ。全てあいつらに吐かせた。悪かったな、気付いてやれなくて」
マルコの穏やかな声に○○の涙腺は緩む。
「わ、私が最初からお金なんか出さなければこんな事に……」
○○は泣きながら声を出した。
「……そうだねい」
マルコは小さく頷いたが、少し考える仕草をした。
「いや、相談して欲しかったよい」
マルコは首を振った。
「……はい。私がマルコさんに相談してれば……私がやるべき事に気付いていれば……」
○○はがばりとマルコを見た。
「マルコ、さん!わ、私はマルコさんにすがりたかった!でも!嫌われたくなかった!でも!……でも、結果的に私はマルコさんに愛想つかされて」
○○は泣きながらもしっかりと声を出す。
「マルコさん。私を捨てないで下さい!一生日陰で良い!マルコさんが他の人を好きでも良い!絶対誰にも言いません!相手と別れて欲しいとも言いません!…………だから、……だから私を捨てないで下さい……」
○○は泣き叫んだ。もうすでに別れた身だ。しかし、これから生涯マルコに近付けないのは辛い。
「…………それで良いのか?」
マルコは静かに声を出した。
「……はい」
「俺がお前の事を愛してなくても抱かれたいのか?」
マルコの声は感情を孕んでいなかった。
「………………はい」
○○は静かに頷いた。
「縛って物みたいにしても良いってのかよい」
「…………はい」
「はぁ」
マルコのため息に○○の体はびくりと揺れた。
「俺は好きな女しか抱かねェよい」
昔に言われた言葉をマルコの口からまた聞かされた。
全てが終わった事を悟った。
「これ」
マルコが取り出したのは○○がマルコに宛てて送った段ボール箱だ。
暗い瞳でそれを見た。
「今まで送ったアクセサリーも入ってたよい」
マルコは自分がプレゼントしたアクセサリーの入った箱を取り出しベッドの上にばら撒いた。
「……自分では捨てられなかったので」
○○は辛そうに声を出した。
「……売ってなかったんたな」
マルコはしみじみと言った。
「売れるわけないじゃないですか。着けてると取られそうなので」
○○はちらりと箱を見た。
本当はずっと着けていたかった。
離れていてもマルコと一緒にいられる気がしたからだ。
「そうか」
マルコは静かにその箱を持ち上げると○○に差し出した。
「え?」
「もう一度受け取ってくれ」
「……」
マルコの言葉に○○は静かに手を出した。
マルコは箱を○○の手のひらに乗せた。
「○○、お前を試すような事をして悪かった。お前以外に好きな奴なんていない」
「…………え?」
マルコはベッドの端に腰を掛けるとジッと○○を見つめた。
「お前が俺の金目当てで人生が狂うなら申し訳がないと思ったよい」
マルコは○○の手を箱ごと自らの手で包み込む。
「前と変わらずに、いや、前以上に○○が大切で、愛してる。一緒にいて欲しいのは俺の方だよい」
「ま、マルコ……さん」
マルコの言葉に○○は泣きながら頷いた。
「私も、私もマルコが好きです!ずっと一緒にいてください」
○○は泣き笑いをして懇願した。
「ありがとうよい」
マルコは静かに○○を抱き締めた。
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