07
3人分のお弁当を作りはじめて早数ヵ月。
2人共里にとっては必要不可欠な忍であるので、任務で外にいる事も少なくない。
それでもお弁当のバイトはかなり割りが良く、借金返済も順調だ。
「御馳走様」
「お、お粗末様でした」
隣にいるのはテンゾウではなくカカシだ。
テンゾウは任務で里の外。
「やっぱり旨いね」
上機嫌でカカシが言う。
「あ、ありがとうございます」
○○は緊張気味に頷いた。
カカシはテンゾウがいる時は必ず弁当箱を持ってどこかへ行く。
しかし、こうしてテンゾウがいない時は必ず○○の隣で食べるのだ。
カカシは里の中でも外でも有名な忍である。どうしても緊張してしまうのだ。
「ところでさ、テンゾウとはどんな関係?」
カカシは興味なさそうに聞いて来る。
「え?ど、どんなって、…………お弁当を一緒に食べる関係ですかね?」
○○は戸惑いながら答える。
「質問してるのはこっちなのに……。ま!良いか」
カカシは本(例のいかがわしい本)を取り出し、ペラリと捲る。
(…………うーん、この沈黙が辛い。しかもエロ本って、私はどうすれば良いのよ)
○○はそっとため息をついた。
(ん?)
視線を感じてそちらを見るが何もない。
「どうかした?」
「あ、いえ」
カカシの質問にふるふると首を振る。
「気になるから言いなさいね」
のほほんと言ってくるカカシを見上げる。
眠そうな目と合った。
「あの、最近変な視線を感じて……」
○○は困った様に笑った。
(自意識過剰って言われたらどうしよう……)
「あ!カカシ上忍を見る女性の視線ですかね?」
○○は自分で言うと納得する。
「…………かもね」
カカシは再び本に視線を落としてペラリとページを捲った。
(……興味なしか!)
胸中で思わず突っ込んだ。
「そろそろ時間だ。その変な視線を一人の時にも感じたら言いなさいね」
カカシは本を閉じると立ち上がる。
「え?」
「何もないに越したことは無いけど、何かあったら嫌だろ?テンゾウにも言うんだよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ん、じゃーね」
シュンッとカカシは消えた。
「…………カカシ上忍って、ああ言う仲間思いなところがモテるのか」
○○は妙に納得していた。
「しかし、敵意の無い視線には興味がないのね」
○○はやれやれと弁当箱をしまった。
「ひぃー!遅くなっちゃったよ」
3代目火影直々に書庫の整理を仰せつかった。
しかし埃も多く、整理だけに終わらず、掃除も始めてしまったら、日はとっぷり暮れていた。
アカデミーはすでに真っ暗。
夜の任務をする忍達がいるだけだ。
「…………早く帰ろう」
何だか場違いな気がして○○はなるべく速足で廊下を歩く。
「おい」
「ひぃぃぃ!!!」
急に声をかけられ、変な悲鳴をあげてしまった。
(し、忍なのに!情けない!)
○○は怖々振り返る。
「何してんの?」
「て、テンゾウさん」
いつか見た暗部服に、お面をずらしたテンゾウが立っていた。
「書庫の整理をしてたの。テンゾウさんは?任務終わったの?」
知った顔にホッとしながら○○はテンゾウを見上げた。
「うん。今報告に行くところ」
「お疲れ様でした」
「どうも」
○○がにこりと笑って労う。
「何か変わった事なかった?」
「変わった事…………」
テンゾウの言葉に思い浮かぶのはあの視線。
「…………ううん!大丈夫!」
まぁ、気のせいだと○○は首を左右に振った。
「そう」
「テンゾウ、行くぞ」
他の暗部がテンゾウに声をかける。
「じゃあ、お疲れ様!また明日!」
「ああ。弁当楽しみにしてる」
「うん!」
○○はテンゾウに手を振って別れた。
「明日のお弁当は何にしようかな?鮭も昆布もあるからおにぎりかな」
○○は指を折りながらメニューを考える。
「卵と油揚げがあるから、あぶ玉煮にしてー」
急に昼間に感じた視線を感じた。
「っ!!……」
○○は少しずつ足が速くなる。
(付いて来てる)
○○は冷静に自分を保ちながらも心臓は嫌でも速くなる。
(失敗した。テンゾウさんにちゃんと言えば良かった)
○○はタンッと地を蹴った。
木々の上を飛ぶように走ると相手も付いて来るのがわかった。
(完璧私に用があるのか)
ドキドキとうるさい心臓を無視して、なるべく繁華街へ出ようと方向を変える。
「なっ?!」
後ろからクナイを投げられ、とっさに避けたが、もう一本のクナイとロープで繋がっており、ロープが体に絡まった。
「逃げるから」
「っ!」
何とか空中で体制を立て直して着地には成功する。
しかし、クナイとロープのせいで体の自由は奪われてしまった。
低い男の声に○○は振り返る。
「貴方は?」
○○はなるべく冷静に聞く。
「覚えてないの?」
男の言葉に○○は男の顔を良く見る。
確か2、3度挨拶をした程度の事務忍だ。
その事を伝える。
「そうだね。俺はずっと君を見てたけど」
男はニヤリと笑った。
「…………えっと、それは」
「君の事が好きなんだ付き合って欲しい」
素直に紳士的に言うが、○○の体の自由を奪ったのは間違いなくこの男だ。
「あ、ありがとう。でも、私今好きな人がいるの」
○○はあまり刺激しない様に言う。
「…………俺より?」
「えっと、…………うん」
「こんなに君の事を見てるのに?」
「…………」
「お前なんか、ドベのくの一の癖に」
「…………」
「落ちこぼれ忍者のお前なんて相手にしてやれるのは俺くらいだろ!」
「………………」
男の言葉に「その通りだ」と思ってしまう○○だが、こんな感情の不安定な男と恋人になるなんて御免だと思い返す。
「あ、ありがとうございます。でも、私は」
○○が言うとクナイが飛んできた。
「っ!!」
避けた筈が、やはりまた糸が付いていてクイッと曲がった。
腕にうっすら傷を作った。
「……こんな事する人に付いて、行く、わ、訳…………あれ?」
ぐらりと視界が揺れて、その場に座り込んでしまった。
「大丈夫。死なないから」
にこりと笑って男は○○に近付いて来た。
「な、に、したの?」
○○はキッと男を睨み付けた。
「痺れ薬と素直になる薬を塗ってあったんだよ。大丈夫。意識は飛ばない筈だから」
男は座り込む○○に視線を合わせるようにしゃがんだ。
人差し指で○○の顎をグイッとあげる。
「せいぜい俺を楽しませてくれよな」
男の笑い声に○○の全身から嫌な汗が流れた。
きみとぼくの距離7
心配させたくない忍と心配な忍
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[mokuji]
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