03
「今日も良いお天気だなぁー」
温かいお昼休憩。
外にランチに行くと言う同僚と別れ、○○は一人ベンチでお弁当を広げていた。
「はぁ、今月もピンチ。節約してるのに……お金って貯まらないなぁ」
○○は任務に出ない事務中忍。特別手当ても出ずに、お給料も少ない。それに、借金もあった。
よって、いつもお弁当持参なのだ。
「ん!鳥の唐揚げ美味しくできた!」
グラム3両の激安鳥のモモ肉でもここまで美味しくなる。
「はぁー……」
ーードスン
「はぁーっ」
突然すぐとなりで息を吐く音が聞こえ、驚いて振り返る。
「………………」
○○の隣には1週間ほど前に本屋で本を取ってくれた男が座っていた。
(ちょ、何この人……。椅子なら他にも空いてるじゃない)
○○はきょろりと辺りを見た。
人気は殆どなく、数あるベンチも空席ばかりだ。
○○は少し怖くなった。
「旨そうですね」
「へ?」
「弁当」
席を変えようかとした矢先、男が弁当を覗き込んできた。
「…………」
「任務から帰って来たばかりで」
「…………お、お疲れ様……です」
「どうも。だから最近まともなモン食ってなくて」
「…………」
「旨そうですね」
男は同じ事を繰り返すと、じっと弁当を見つめる。
「…………良かったら、食べます?」
「良いんですか?」
「…………」
(催促しておいて)
無表情に近い男の顔が少しだけ嬉しそうになる。
「どうぞ」
○○は弁当箱を男の方へと差し出す。
「ボク、今手が汚いんです」
ほらと見せる手は何故か真っ黒。
「…………」
(どうしろと)
○○が困っていると男は口を開けた。
「…………」
○○は仕方なく箸を逆に持ち唐揚げを持ち上げると男の口へ運ぶ。
「…………うまっ」
男は驚きの声をあげる。
「それは良かったです」
「ボク、油っぽいモン苦手なんですけど、この唐揚げは旨いっすね」
「ほ、本当?」
男の言葉に○○は素直に嬉しく思った。
○○が男を見上げるとまた口を開けていた。
「…………」
○○は仕方なく野菜炒めを男の口へ運ぶ。
「…………うまっ」
男は少し嬉しそうに笑った。
「…………」
○○はすっかり食べ尽くされてしまった弁当箱を呆然と見た。
「テンゾウ」
「時間ですか?」
男は名を呼ばれて立ち上がる。
「じゃあ、御馳走様」
男ーーテンゾウはそれだけ言うと姿を消した。
ーーぐー
「…………お腹空いた」
○○はガックリと項垂れた。
「あれ?○○さん顔色悪くないですか?」
同僚のイルカにそう声をかけられた。
「……はい。色々あってお昼食べられませんでしたから」
○○は項垂れたままであった。
「それは、それは……」
イルカは困った顔をしていた。
「でも、これで今日も終わりですし!」
○○は終業時刻を確認して席を立つ。
「そうですね、お疲れ様でした」
「お疲れ様でした!」
○○は立ち上がり、一人廊下を歩く。
ーードロン
「へ?」
「さっきはどうも」
弁当を奪った相手、テンゾウがいきなり姿を現せ、叫びそうになるのを何とか堪えた。
「これ」
「なに?」
テンゾウが差し出して来た紙袋を不思議そうに受け取る。
「こ、これは!1日3本限定の栗羊羮!」
○○は驚いて羊羮を手に持つ。
とても人気でなかなか手に入らない。しかも、値段も高いのだ。
「じゃあ、ボクはこれで」
「あ!」
ーードロン
礼を言う間も与えずテンゾウは姿を消した。
次の日。
○○は同じ場所で弁当を広げていた。
「どうも」
「…………どうも」
再び隣に座って来たテンゾウ。
「今日も旨そうですね」
テンゾウが昨日と同じように弁当を覗き込んできた。
「………………はい」
○○は自分の弁当箱より一回り大きい弁当箱をテンゾウに渡した。
「これは?」
テンゾウは不思議そうに弁当箱を受け取る。
「昨日の羊羹お礼と言うか、これ以上私のお昼ご飯が無くなるのは困るから」
○○は今頃になり照れを感じて早口で捲し立てた。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「……いらなかったら捨ててください」
「…………ぷっ」
クルミパンの時と同じ台詞に思わずテンゾウが笑った。
「な、なに?」
「ありがたく、頂戴いたします」
テンゾウの初めて見せる柔らかい笑顔に○○は顔に熱が集まるのを感じた。
きみとぼくの距離3
弁当友達
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