最終話
「君はどうしたい?」
ヤマトは静かに○○に聞いた。
「……わ、私は」
○○が口を開こうとしたが、ご意見番の2人の威圧感が気になってそれ以上言葉が出なかった。
「おい」
「は、はい!」
○○は驚いて飛び上がりそうになった。
「今自分の意見を言わなかったら後悔するんじゃないか?」
綱手が机に両肘を乗せ、手に顎を乗せニヤリと笑った。
「……」
「ほらほら、言っちゃいなさいよ」
カカシまでもが○○の背中を押すように言った。
「……私は」
○○は喉がカラカラになり、ごくりと喉を鳴らした。
ヤマトに別れを告げてからの2年間は後悔だらけで長く辛い日々だった。
「私はテンゾウさんが好きです。一緒にいたい」
○○はポツリと呟いた。
「私は何があってもテンゾウさんと一緒にいたいです!!!」
○○は叫ぶようにご意見番の2人へと声を出した。
「○○ちゃん」
ヤマトはホッとした様に○○の手を取り、しっかりと繋いだ。
「2人がどんなに言おうと結婚は認められない!!!」
いつも冷静なホムラが珍しく声を荒げた。
「何故だ?」
それに口を挟んだのは綱手だった。
「5代目。これは里の問題なのだぞ?」
ホムラはキッと綱手を睨み付けた。
「そうか?現に私は初代の孫娘だが、子はいないな」
綱手はあっけらかんとした声を出す。
後ろでシズネが「はい!そうですね!」と元気に頷き、叩かれた。
「ならば、結婚して子をなそうとするなら、良い事ではないか」
綱手はクスリと笑った。
「しかし!」
ホムラはなおも食い下がる。
「ヤマトは元々大蛇丸の実験の生き残りだ。血も何も無いだろう。おい、○○」
「は、はい」
急に話を振られて○○の声が上擦る。
「お前は木遁のテンゾウを好きになったのか?」
「……」
綱手の質問にどう答えて良いか解らずに反応できずにいた。
「暗部だからか?ヤマトだからか?」
綱手は質問を重ねた。
「いえ」
○○は静かに首を左右に振った。
「テンゾウさんがヤマトさんでも、木遁使いじゃなくても、暗部じゃなくても、例え何だとしても…………きっと好きになってました」
○○は繋いだ手に力を入れながら綱手から目を反らさずに言った。
「ほら!もう無理だろ!下手したら優秀な忍と料理人を無くす所だ!」
綱手は楽しそうに笑った。
「誰にでも火の意思は受け継がれるんだ」
綱手はホムラとコハルにニヤリと笑った。
「……しかし」
「もう、私達の負けね」
ホムラにコハルが諦めたように笑った。
「貴方達は私達が言った所で別れないのね?」
コハルが穏やかに笑う。
「はい」
「は、い」
ヤマトと○○が頷いた。
「そう……」
コハルは小さく頷いた。
「どうやら、今回ばかりは私達が間違っていたのかもしれないわね」
コハルは深く息をすると、○○とヤマトを見つめた。
「それでも、私達に取って木遁は特別な物だから……」
コハルは少し寂しそうに笑った。
「…………終わった……の?」
ヤマトの部屋でベッドに寝転がり、お互いに手を繋いだまま○○はポツリと呟いた。
「……いや、始まったんだよ」
ヤマトもポツリと呟いた。
「……そっか」
○○は嬉しそうに笑った。
「しかし、テンゾウさんに名前が無いから私の名字になるとは思わなかった」
○○はクスクスと笑った。
「そうだね。ボクも今日から□□だ」
ヤマトもクスクスと笑った。
ご意見番、綱手、シズネ、カカシが立会人となり、ヤマトと○○はその場で入籍をした。
元々名前も無いヤマトには○○の名字である□□が与えられる事になった。
「しかし、いつまでテンゾウ?今はヤマトなんだけど」
ヤマトは不思議そうに○○と向き合った。
「……そ、そうなんだけど」
○○はやはりテンゾウが呼びやすく戸惑う。
元々暗部でコードネームの様な名前を変えてきたヤマトにとってはそれが不思議だった。
「ヤマトさん」
「ん?」
「よ、呼んでみただけ」
○○は少し恥ずかしそうに笑った。
「ダメだろ、それ可愛い」
ヤマトは笑いながら○○を引き寄せた。
「これからは名前が変わっても、他の人に何を言われてもボクを信じて」
ヤマトは○○を腕に抱きながら真剣な声を出した。
「うん。ヤマトさんを信じて待ってる。だから、生きて帰って来て」
暗部の仕事は命の危険なものもたくさんある。時として、自分の命よりも優先する事もある。
「…………出来る限り、ね」
ヤマトは優しく笑った。
きみとぼくの距離23
絆のある距離
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