20
「て、テンゾウ、さんだよね?え?ヤマト隊長?……暗部だし、名前変えてるのかな?」
○○はしゃがみ込みながらドキドキと鳴る胸を押さえた。
「うーーー。3年は経つのに…………全然諦められて無いじゃない。向こうは私の顔なんて見たくないだろうに」
○○の目にじわりと涙が浮かぶ。
過去に自分がした事に対しての後悔の念が胸を打つ。
「うぅ……」
「何やってんの?そんな所で」
勝手口が開くと、カカシが現れた。
「ちょ、カカシさん!ここ勝手口!」
○○は慌てて立ち上がると涙を拭った。
カカシもナルトと一緒でこの店の常連客だ。
そして、テンゾウとの間に何があったかを知る唯一の人だ。
何故かと言うと、無理矢理言わされたのだ。
それを知ってもテンゾウに真実を言う事もなく、○○の弁当も止めていないのだ。
「来たでしょ?テンゾウ」
「っ!!知って?!」
カカシの言葉に○○は驚いた。
「だって、ここで食事を提案したの俺だもの」
しれっとカカシが言う。
「っ!!」
「もう、3年も前の事でしょ?大丈夫だって」
「…………はい」
カカシの言葉に○○は項垂れた。
「カカシ先生遅いってばよ!」
ナルトがカカシを見付けるとブーブーと声を出した。
「ちょっと、道に迷って」
「はいはい、嘘嘘」
カカシの言葉にサクラが冷たく言う。
「○○ちゃん、俺ビール」
「あ、はい!あの、ヤマトさんは?」
○○はカカシに頷いてからヤマトを振り返る。
「……じゃあ、俺も」
「かしこまりました、お待ちください」
○○は営業スマイルで頷くと厨房へと消える。
「驚いた?」
カカシが○○の姿が消えてからヤマトに言う。
「……えぇ、まぁ」
ヤマトは興味無さそうに言う。
「それだけ?」
「…………もう昔の事です。何とも思いませんよ」
ヤマトはそう言ってクルミ入りのごぼうサラダを食べた。
懐かしい味に胸の奥がじくりとした。
「ま!なら良いよね?」
にこりとカカシが笑った。
「お待たせしました」
○○がカカシとヤマトの前にビールを置いていく。
「ちょ、カカシさん。何ですか?」
○○のその手をカカシが掴んだ。
ギョッとして箸を止めるサクラとナルト。
「ねぇ、そろそろ俺と付き合ったら?」
カカシが○○を見る。
「は?」
○○は目をぱちくりとしてる。
ヤマトがぴくりと反応した。
「いや、だから無理ですって」
○○は怪訝そうにカカシを見る。
「俺は気にしないよ?」
カカシは食い下がる様に言う。
「いやいやいやいや、どうしたんですか?カカシさん!」
「それとも、俺とは付き合えない正当な理由でもあるの?」
カカシは真剣な目で○○を見る。
「っ!!ここで言う事ではありません」
○○は静かに声を出した。
カカシが何をしたいか分かったからだ。
「なんで?」
「な、何でって……」
○○は戸惑いながらついヤマトを見ると、目が合った。
「っ!もー!ふざけるのは止めてください!」
○○はヤマトのまっすぐな目に耐えきれずにカカシの手を振りほどこうとするが、簡単には取れない。
「言っちゃいなよ」
「それで何かが変わる訳じゃないんです!」
「でも、スッキリするかもよ?」
「っ!!」
○○は泣きたいのか、怒りたいのかよく解らない顔になった。
「カカシさん!ちょっと、こっち来てください!」
○○はカカシを椅子から立ち上がらせると厨房にある勝手口へと向かった。
「おー!これってば?これってば?!」
ナルトが少し興奮したように言う。
「もしかして、カカシ先生って本気だったんだー!」
サクラが驚いて声を出す。
「?」
サイはよく解らなそうににこにことしていた。
「何やってるんですか!?」
○○は店の外まで行くと、カカシを睨み上げた。
「何ってあんたの為でしょ?ここで誤解を解かなきゃこの先テンゾウはこの店に二度と来ないよ?」
カカシが腕組みをして壁に体重をかけた。
「ご、誤解だなんて……」
○○は困った顔をした。
「二度と会えないと思っていたので、少しでも元気な姿が見れて良かったです。ありがとうございました」
○○はぺこりと頭を下げた。
「じゃなくて、あんた、まだ好きなんだろ?あいつの事」
カカシがやれやれと声を出す。
「…………そんな事ないです」
○○は感情を押し殺そうと笑った。
「なら、どうして付き合わないの?」
「だから、忍の方とは」
「違うでしょ?あんた、一般の男にも告られてたでしょ?」
「…………それは、好みじゃないからで」
○○はポツリと呟いた。
「テンゾウと比べてだろ?」
「…………そんな事」
カカシの言葉に首を左右に振った。
「なら、俺と付き合いなさいよ」
「だから、私が忍としてダメだから貴方みたいな上の方の忍とは付き合えないんですって!」
「誰がそんな事」
「だから、ご意見番様のお2人に」
「それ、どう言う事?」
「だから、テンゾウさんの時に…………へ?」
思わず答えてからカカシの声じゃないと振り返った。
「何でご意見番の2人が出てくるの?」
ヤマトが腰に手を当てて立っていた。
「いや、ちょっと、カカシさん!」
○○がカカシを見上げるが、カカシはその場から動かない。
「気付かない○○ちゃんが悪いんでしょ?」
カカシはしれっと言った。
「只でさえ元ドベ中忍が上忍や暗部の気配が解るわけないでしょ!」
○○は混乱したまま叫んだ。
「ねぇ、誤魔化さないで」
ヤマトの冷たい声にぎくりとする。
「……そんな事聞いても今更何も変わらないでしょ?」
○○は泣きたい気持ちを押さえてヤマトから視線を外した。
「それでもボクには聞く権利がありそうだけど?」
ヤマトは無表情のままだ。
「…………任務だったから」
「あんたもう忍じゃないでしょ」
カカシが促すように言う。
「…………」
「○○ちゃん」
ヤマトの呼ぶ声にどきりとした。
「話して」
異様に優しい声色に○○は重い口を開いた。
「と、言う訳です」
○○は壁にもたれてぐったりとした。
「…………」
ヤマトは顔を押さえていた。
「あの、これからは普通のお客様としてこの店をご贔屓にしてくださいね!」
○○は顔だけでにこりと笑った。
「あ!今度は彼女とかも連れてきてください。出来たら、お子さんとか!って、彼女に対して無神経か」
○○は困った様に笑った。
「…………」
ヤマトはじっと○○を見る。
「で?あんたは一生独身なの?」
カカシは呆れた様に声を出した。
「……そ、そんな事ないですよ」
○○は困った顔をする。
「なら、ヤマトも何も言わない事だし、誤解も解けたし、俺と付き合いなさい」
カカシがなおも言う。
「あの、聞いてましたよね?と、言うか急に何なんですか?」
○○は少し呆れ気味にカカシを見る。
「本気じゃなかったら何年もアンタと付き合ってない。それに俺は別に誰に何言われても気にしないよ?なんなら、遊びだと割りきる?」
「っ!……なに言ってるんですか」
○○はカカシの言い方に怒りを覚える。
「良いんじゃない?お互い遊びで」
カカシが○○を壁まで追い詰める。
「嫌です」
「今の気分にさせたんだよ?」
カカシがヤマトを指差した。
「……」
「今更許されないでしょ」
「……」
○○が泣きそうになった所でカカシが口布をずらして顔を近付けた。
「すみませんが」
「て、や!」
ヤマトがカカシを止める。
それに驚いて○○が名前を呼ぶに呼べずにいた。
「先輩は少し席を外して貰えますか?」
ヤマトは怖い顔でカカシを見る。
「嫌だよ。どうしてもって言うなら拐えば?」
カカシが例の眠そうな目で言う。
「…………そうします」
「へ?」
ヤマトは○○を荷物の様に担ぎ上げた。
きみとぼくの距離20
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