16
最近○○の元気がない。
「え?そんな事ないよ!」
○○はそうテンゾウに指摘され、慌てて笑った。
「ちょっと最近忙しくて、疲れが出てきたのかな?」
○○は困った様に笑った。
「…………それならさ、温泉でも行かない?」
テンゾウがそう提案する。
「え?でも、テンゾウさん任務は?」
○○は不思議そうにテンゾウを見上げた。
「休みなんだ。と言うか、これだから温泉でも行って治してこいって」
テンゾウはこの前○○を助けるために負った傷を叩いた。
「…………ごめんね」
○○は沈みきった顔をした。
「そう思うなら一緒に行ってくれる?この痣も治しちゃいたいよね」
テンゾウが○○の首に残る痣を撫でた。
「うん」
○○は困った様に、だがしっかりと頷いた。
「じゃあ、行こう」
「え?今から?」
○○は驚いてテンゾウを見上げた。
「そう」
テンゾウはにやりと笑った。
「わかった。準備するね」
○○は笑うと席を立った。
「それではごゆっくりどうぞ」
仲居はそう言うと部屋を後にした。
2人はあれからすぐに出掛けて、温泉宿へとやって来た。
「素敵な所だね」
○○はきょろりと部屋を見渡した。
「気に入った?」
「うん!」
「なら、良かった」
テンゾウはホッとした様に笑った。
「ねぇ、少しお散歩しない?」
「散歩?」
「うん。ダメ?」
○○が首をかしげた。
「良いよ、行こう」
テンゾウは軽装になると立ち上がった。
「素敵な道だね」
○○とテンゾウは森の中の小道を歩いていた。
「そう?」
テンゾウは森よりも○○を見ていた。
「そう言えば木遁ってどんな事が出来るの?」
○○は印を結びながら聞く。
「何?急に」
テンゾウは不思議そうに○○を見る。
「前から気になってたけど、聞くタイミング無かったし」
○○はにこりと笑った。
「そうか。まぁ、色々出来るけど」
テンゾウは軽く印を結んだ。
すると、突然木製の牢屋が現れた。
「これが『四柱牢の術』」
「すご……」
突然現れたそれに呆然とする○○。
「あぁ、そうか。ぼくがこれに君を入れたの覚えてないんだよね」
テンゾウは思い出した様に言う。
「え?わ、私何をしたの?」
驚きでおろおろとする。
「…………まぁ」
テンゾウはその時の事を思い出した。
「ねぇねぇ!他は」
○○がせがむとテンゾウは仕方ないと良いながらも優しく笑った。
「なかなか便利なんだね!これ手で触っても木って絶対解らないよ!」
○○は木で出来たテンゾウの分身をペタペタと触る。
「そう?」
分身の方のテンゾウが首をかしげた。
「どうかした?」
オリジナルの方のテンゾウが○○の様子を不思議そうに見る。
「いや、テンゾウさんが2人って凄く贅沢だね」
えへへと○○は照れたように笑った。
テンゾウと分身のテンゾウが顔を合わせた。
そして、分身のテンゾウを消した。
「あ!もうおしまい?」
○○は残念そうに言う。
「おしまい」
テンゾウは少しだけ顔を背けた。
本当は分身に嫉妬しただなんて、言える訳もない。
「でも、これなら」
印を結ぶと小さな木の人形が○○の手に現れた。
「これは?」
○○はその人形をまじまじと見た。
「…………変わり身の術のミニチュア」
テンゾウはやってか照れていた。
「これ、テンゾウさん?」
よく見ると、ヘッドギアもつけていた。
「ま、まぁ」
「…………これ、貰って良いの?」
大笑いをされると思っていたテンゾウは○○の反応に少なからず驚いた。
「欲しいなら」
「っ!!ありがとう!!大切にするね!」
○○は今にも泣きそうな程に喜んだ。
「○○ちゃん、大袈裟だよ」
テンゾウはクスリと笑った。
温泉に入り、美味しい食事に舌鼓を打つ。
布団に入りどちらともなく体を重ねて眠りについた。
「ん?」
夜中、テンゾウが目を覚ますとどこか思い詰めた様な目をした○○が自分の上に乗っていた。
「どうしたの、○○ちゃん」
テンゾウは慌てた様子無く○○を見上げた。
「うん。…………何だかしたくなって」
言いながら○○はテンゾウに口付けた。
テンゾウは抵抗も見せずにそれを受け入れる。
「珍しいね、○○ちゃんから誘うの。それにこんな時間」
テンゾウは不思議そうに○○を見上げた。
「嫌?」
「嫌じゃないよ」
「ありがとう」
○○は切なそうに礼を言った。
何かを抱えているであろう○○をお互い忍であるから人に言えない事もあるだろうとテンゾウは黙って受け入れた。
しかし、それを後悔する事になる。
きみとぼくの距離16
触れられるのに心に隙間がある
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