14

カーテンから差し込む微かな光。
夜が明け始めた時間に○○は目を覚ました。

もぞりと動いて目を開けた先は、テンゾウが規則正しい寝息を立てて眠っていた。

(朝……)

寝惚けた頭でも、身動きをなるべくしないようにする。

テンゾウは暗部の優秀な忍である。
彼の眠りは浅い。すぐに何かがあったら動けるよう、少しの人の気配で起きるのだ。
戦場では誇れる行為だが、恋人の家では些か厄介であった。

(私の隣では安心して眠って欲しいけど……。そうなるにはまだまだ時間が足りないかな)

○○は少し残念に思った。

(でも、テンゾウさん、家に帰らなくて良いのかな?)

最近のテンゾウは任務から帰ると○○の家に泊まる。
朝になり準備のため一度家に寄り、そしてまた任務へと言うのが決まりになっていた。

最近は暗部の任務が多く、お弁当は一緒にはあまりしていない。

その事を気に病んだのか、テンゾウは自分の時間を全て○○と過ごしていた。

(たまには一人でゆっくり休まなくて良いのかな?一人の方がゆっくり眠れるだろうに)

○○はテンゾウの行動が嬉しくもあるが、心配でもあった。

恋人の家に泊まるのだ。
ただ、食事をして一緒に寝るだけではない。

その事も含め、自分と言う存在のせいでテンゾウに負担がかかっているのではないかと考えたのだ。

(よし!折角だから朝御飯は栄養のあるものにしよう!)

○○は気合いを入れると細心の注意を払って布団から抜け出そうと行動する。

「どこ行くの?」

やはり、テンゾウはパチッと目を開くと○○を逃がさない様に抱き締めた。

「お、おはよう」

○○は申し訳なさそうに声を出す。

「ん、おはよ」

テンゾウは一瞬眠そうな顔をする。

「まだ朝早いから寝てて平気だよ」

「どこ行くの?」

○○の言葉にテンゾウは同じ質問をする。

「朝御飯作ろうかと思って」

そう言うとテンゾウはもぞもぞと手を動かし、時計を見た。

「まだ早いよ」

テンゾウはそれだけ言うと○○を腕の中へ閉じ込めた。

「…………ねぇ、テンゾウさん」

「ん?」

「家に帰らなくて良いの?」

気になっていた事を聞いてみる。

「帰ってるよ?」

テンゾウは不思議そうに○○を見る。

「任務の準備のためでしょ?」

「まぁね。でも、それで充分だろ?」

テンゾウは当然の様に言う。

「……本当に?」

「どう言う意味?」

○○の言葉にテンゾウが聞き返す。

「だから、自分の時間が無くて良いの?こうして私の動きで起きちゃうより、家でゆっくり寝た方が良いんじゃないかなぁって」

○○はポツポツと言葉を紡いだ。

「…………○○ちゃんはボクがこんなにいたら迷惑?」

「え?」

「疲れる?」

テンゾウは真剣な顔付きで聞いた。

「う、ううん!全然!私は嬉しいんだよ。こうしてテンゾウさんと一緒にいられるの」

○○は力一杯言う。

「なら、ボクも同じ」

テンゾウの柔らかく笑った。

「ボクはボクがしたい事をしてるだけ。○○ちゃんといたいからここにいる」

「……」

「それに、一人で家にいても結局は任務の事考えちゃって疲れるからね。○○ちゃんに癒される方が絶対に良いよ」

「テンゾウさん」

○○はテンゾウの言葉に嬉しくなる。

「そう言えば今日は任務入ってないんだ」

テンゾウが思い出した様に言う。

「え?そうなの?」

珍しいねと○○は驚いた。

「あ、だからゆっくり出来るんだ」

○○は外に出る事を止め、テンゾウにしっかりと近付いた。

「それもそうだけど」

テンゾウが言葉を濁す。

「ん?なに?まだ何かあるの?」

○○は歯切れの悪いテンゾウを不思議そうに見る。

「たまにはどこか出掛ける?」

「え?」

テンゾウの言葉に驚いて目をぱちくりとさせる。

「それって、デートって事?」

○○は思った事を口に出した。

「まぁ……そうなる、よね」

テンゾウの口調はやはり歯切れ悪い。

「…………もしかしてテンゾウさんってデートとかした事ないの?」

○○は不思議そうにテンゾウを見る。

「……前に言ったろ?モテないって。それにずっと暗部だからそう言うのした事ないんだよ」

少しだけ顔を赤くしたテンゾウが目を伏せた。

「…………」

「変?」

「ううん。嬉しい、かな」

○○はにこりと笑った。

「嬉しい?」

「うん!テンゾウさんの初めてをいただきます!」

○○はクスクスと楽しそうに笑った。

「…………その余裕ある顔が腹立たしい」

「へ?いや、あはははははは!!!」

テンゾウはずーん怖い顔をして○○を思いきりくすぐった。








午後、テンゾウと○○が一緒に歩いている所を見た人が

「イルカが振られてテンゾウと付き合ってる!」

と、新たな噂を流した。




その事が今後の2人の距離を変える事になる。






きみとぼくの距離14



手を繋いで生まれ故郷を歩く

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